ル=グィンの『所有せざる人々』を読み終えた。
ル=グィンらしく、複雑で難解な印象を与える作品。
所有せざる人々 (ハヤカワ文庫SF)/アーシュラ・K・ル・グィン
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- 惑星アナレスに住む物理学者シェヴェックは、理論の完成を求めて、双子惑星ウラスへ行く。
アナレスは2世紀近く前、オドー主義者という政治亡命者達がウラスから離れ、植民した地であった。そこは荒涼とした惑星で、人々は個人の物を所有せず、誰もが労働し、得た物はすべて平等に分けられた。それに比べて、ウラスは長い歴史があり豊かで美しく、自由があった。
アナレスは共産主義的理想社会。平等ではあるが、閉塞的。ウラスは資本主義的階級社会。自由はあるが、すべてに利潤が優先され、貧富の差が激しい。
シェヴェックは自分の理論を認めようとしないアナレスから逃れ、その理論を高く評価するウラスに移り、歓待と優遇を受ける。しかし、その裏には利益追求の打算があることを知る。そして、貧困に苦しむ人々が蜂起し、その渦中に巻き込まれ…
ル=グィンがこの小説を出版した1974年は、アメリカとソ連、資本主義と共産主義、相反する政治体制にある二つの大国が世界経済の主導権を争って対立していた時期にある。その後、世界の勢力図は変わったが、今も同様の対立は続いている。
シェヴェックは結局愛する妻や子ども達のいる、アナレスへ帰る選択をするのだが…
この世にユートピアは存在しないのだろう。あるとしたら、それぞれの心の中にか。
深く考えさせられる作品。帰還した“裏切り者”シェヴェックのその後が気になる。