その家は、静かな佇まいの中、光を浴びていた。


僕たちは小一時間木々の間を当てもなく散策した。

意味があるかも知れない偶然の一致は果たしてどこへ向かっているのだろうか。それを探るような時間だった。


初夏の花たちに促されるように辿り着いた木造の家屋はひっそりと静まり返っている。

右手の窓のレースのカーテンが揺れ動いて人の気配がした。

ためらいながらドアベルに腕を伸ばした時、ドアが静かに開いた。


幾分、目映い光彩と懐かしい香りが僕たちを包んだ。

「おかえり・・・」

初老の物静かな女の人がこう言った。

板の間に置かれた渋い壺にさんざしが数本活けてある。


少し間をおいて、奥から女の子が小走りで出て来た。

「お母さん、お父さん、おかえりなさい」

「ただいま、お義母さん、里佳」

僕は、こう応えた。

「里佳、ただいま」

彼女はこんなふうに言った。

~つづく~





見上げた空を 風わたり

七色風船 置土産

誰が飛ばすか シャボン玉

誘い誘われ 宙を舞う


流れのさなか 当て所なく 

天使のように 踊り出す

その爽やかな 色彩りに

虹の旅人 立ち止まる


何処ともなく 眺めると

そこは静かな 佇まい

緑豊かな 庭の園


水彩絵の具 音もなく

七色紫陽花 散りばめる

誰が飛ばすか 夢遥か




踏切を渡って左に曲がると、アスファルトのささやかな車道が続いている。

降りて来た駅は、左側で線路を挟んで静まり返っていた。

車道の右側を、時折行き来する車のガソリンの匂いを気にかけながら暫く歩いていると、車窓から見えた光景が広がり始めた。


それは良く手入れの行き届いた、乾いた土の道から始まる散歩コースのようでもあった。



「あのぉ、こちらのお家の方ですか??」


突然、背後から女性の声がした。

立ち止まり振り返ると、いつの間にか少し離れた所に一人のまだ若い女の人が佇んでいた。

光の中に佇むその人は、柔らかに微笑んでいた。


「こんにちは。いいえ、たまたま電車から眺めた光景が気になって、なんとなく散歩していました」

「そうでしたか、、、」

その女性はゆっくり静かに近づいて来ました。

「後ろ姿が風景に調和していて、こちらに住んでみえる人のようでしたので、、、」

初夏の頃に相応しい、若草色のワンピースの裾が膝下で微かに揺らいでいる。遠近から鶯の啼く声がする。それから花の香りが漂っている。


「そうでしたか。貴女はどちらからみえたのですか? 人影はなかったようでしたが、、、」

「私は、あそこの緩やかな坂道を降りて来ました。ちょうどあのさんざしの茂みを左に曲がったら、貴方の後ろ姿が目に入りました。、、、もしかして、こちらのお家の方かと思い声をかけさせてもらいました」

「そうでしたか。あの道はどこにでるのですか? 僕はなんとなく右に曲がって入って来ました」 

「少し登ると自動車道に出ます。私、何故かこちらのお家が気にかかり、駐車余地に車を停めて降りて来ました」

             つづく













よくある話だから、あまり気にかけていなかった。


とても小さな町の鄙びた駅で降りたのは、線路の北側の彼方になだらかな丘陵があり、その中腹に、周りを木々に囲まれた、幾分古びた、さほど大きくはない一軒の家が印象的だったからだったから。


駅の小さな売店で菓子パンとお茶を買い、やはり小さな踏切を渡り丘陵地へ向かってのんびりと歩いて行った。



僕は、北国で生まれ育った。

四季が鮮やかな色彩りに包まれて、それは自然に揺れ動いていた。

山ざくらが周辺の木々の新芽に浮かび、白樺の林が夏の陽射しに溶け、錦繍の秋に燃える山々、そして、冬枯れた真っ白い雑木林を駈け巡る風の音•••••。季節は小川のせせらぎのように過ぎてはやって来た。

そして、果てしない牧草地と広大な畑地。

なだらかな丘の中腹に建つ粗末な我が家。土の道を思い出が行き来する。

夢はいつも帰って行った。丘を越えて、小さな村に。山鳩が啼き、時鳥が話しかけ、郭公が時を超えて佇む。











薄紅色のその花は僅かに俯いて
川下から吹いてきた風に揺れ

せせらぎにとけ込んで蝶を呼ぶ

幾つかの儚いアゲハが風を操る


通り過ぎて来た小径の遠近から

春告鳥が覚えかけの囀りを運ぶ

微睡みの向こうから谺する夢を

かき消すように光が揺らめく


去来する心をもて遊ぶように

僕は風を追い駈けて花々に酔う

スカンポ 白詰草 そして 春女苑


柿の若葉が光を浴びてひらひらと舞い

空の高くにシグナルを送る

そして豊かさを携えて帰って来る