町田そのこさんの
『52ヘルツのクジラたち』

ヒリヒリして痛い、でも、なんと温かい物語なんだろう。





自分自身の中にある、忘れたふりをしてしまっていた傷やら、なんやらを思い出して、読み進めるなかで、途中苦しい気持ちにもなる。


でも、読み進めたいという欲求が
勝る。

主人公のキコは、あるとき"ムシ"という名の少年に出会う。彼らは、それぞれに問題を抱えていて、誰にも聞こえないはずの、声にならない想いを発していた。
 

主人公たちは、生温かい海の底で、静かに呼吸しあって、重なり合う魚のように互いの存在を空間で感じ合っている。

そして、その空間には、痛みの響きがある。
悲しみと得体の知れない絶望の音がある。
絶望に共鳴した二つの存在が、いつしか信頼という旋律を奏でながら、文中の言葉でいう、「魂の番」となっていく。



私はこのセリフがとても好きだ。



「ひとには魂の番がいるんだって愛を注ぎ注がれるような、たったひとりの魂の番のようなひと。あんたにも、絶対いるんだ。あんたが、そよ魂の番に出会うまで、わたしが守るよ」


この本は、"悲しみや苦しみは1人で抱えないで"と教えてくれる。

どんなときも、
必ず、聞こえないはずの52ヘルツの想いを聴いてくれる人が現れて、また自らも誰かの聞こえるはずのない誰かの想いを聴き、手を差し伸べるときがくるのだと。


誰しも、ひとりではない。


読み終えたら朝になってた。


いい本だ。