許されざる者 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

許されざる者 (幻冬舎文庫)
幻冬舎
司城 志朗

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《あらすじ》

一八八〇年、北海道の未開の地。元幕府軍の〝ひと斬り十兵衛〟は家族を成し暮らしていた。ある日、彼のもとを旧友が訪れ女郎の敵討ちに誘う。亡き妻と結んだ「もう誰も殺さない」という誓い、生きるため他に術のない自らへの葛藤――。苦悩のなか十兵衛は、貧しく暮らす子のため再び刀を抜く決意をし、争いの渦へ飲まれていく。


《私的にコメント》

1992年クリント・イーストウッド主演にて公開された作品の日本リメイク版の小説。何気なく手に取ったのは、その時の作品ジャケットそれを再現しているからだった。手にした感想は懐かしい。でも、あれ?という感じだったが、もしかして、日本の小説を?とも思いながら読んでみようかなと。

でも映画用に書き下ろされたものらしい。

西部時代という背景が幕末に置き換わり、と基本的樹な設定をそのまま日本的に直したものとも言えるが、これはこれで楽しめる物語だった。ただいえることは一つ、時代背景のある小説は、最初が重い。すらすら入ってこないのは読み手の問題ではあるが…。

嫌いではないが、史実に基づく話に入り難いのはこういうところにあったりする。で、そればかり読んでいると何事も無かったように流れるのも欠点だな…俺の。


十兵衛という男は逃げていた。その恐怖の源が何であるかは彼にしかわからない。それを知る経験が無い以上、色々な手記、物語で想像する以外には無いが、何となく知りえる思いではある。彼は生きることを選び、その時々の選択の中で、不遇の結果を選んでいたのかもしれない。

人切り、その呼び名が示す畜生道を歩いていたのもそんな一つの選択に過ぎない。それが良いか悪いかではなく、彼の選択の先に合ったのはそれだということだった。誰もが戸惑い、誰もが後悔する時間がある。それを流れゆく時間の中で彼は繰り返してきたのかもしれない。

だから、一つの出会いが彼をかえた。

息を潜むようにして生きる時間の中で彼が見詰めるべきは最愛のものが残してくれた子供たちだった。

不遇な土地で、苛酷な環境で生きていく中で、彼が思うものは何か。何を必要とするのか、答えを探しあぐねるなか訪ねてくる旧友。彼がもたらした条件は、新たな選択肢だった。但し決別した生き方の先に有る選択肢。

例えそうだとしても、十兵衛はそれを選ぶ。葛藤という中でそれを選ぶ苦汁は、その環境下での最後の決断だったのかもしれない。

牙を隠し息を潜め隠れている獣が野に放たれる。

そこに有るのは過去の伝説。それが真実なのか嘘なのかは会い対峙した者しかわからない。

そんなエピソードも一つ混じっている。嘘の上に、虚栄を貼り付けた旅人は、賞金首のいる村で、警官大石に打ちのめされ、さらし者にされる。

幕末の時代を生き、時代の変容についていけなかったものが時代を渡る為に解き放つ嘘は、猛者という自負の仮面を付けた者たちを退けるだけの効力はあったが、勝ち組(新政府)の中で戦い生き残ってきた者の前ではただの道化師に過ぎない。

生と死の狭間で、揺れ動く葛藤は生への執着へと帰着する。生きる為に…。

何故、賞金がかけられたのか。

何故、違法と知りながら賞金をかけるのか。

何故、追われる事になるのを承知で賞金稼ぎになろうとするのか。

何人もの生き様、思いが、交差する時、誰かが審判の鉄槌を下す。

命を欲した者の結末は、生残は、そして、そこに有る思いは。

正義など無いままに、人は、死という終焉を見定める。

命。それを軽んじる者、奪う者、それぞれの人生が出す答えは三様だった。

賞金稼ぎ三人、誰の行き方に共感するかは、それまでに過ごしてきた時間に左右されるのかもしれない。


久しぶりにクリントイーストウッド版が見たいかもしれない。


《映画版サイト》

許されざる者