(これまでの『別突…』は:まだ二回目だけど)
転職のために会社を辞めようとしていた久保謙也の元に裁判所からの封書が届く。それは民事訴訟をされたという書類だった。そして副業をしている訪販の報告書にも異変が。
scene2
謙也は、しばらくの間裁判所からの封書を眺めていた。たぶんこれが原因だろう。ただ、きっかけだとしても何が引き金になったかは判らなかった。
「何だよ、一体」
吐き捨てるように言葉を零すとベッドの上に座り直した。
封書の中身は、民事訴訟における損害賠償請求だった。簡単にいえば不貞の制裁と、言う奴だが、いきなり訴えられるのも珍しい。とりあえず、相手の苗字には覚えがある以上、避けることはできない問題だった。ただ、それと採用の取消や契約の解除が繋がる線は見つけることはできなかった。
よくは判らないが、訴えられている以上、何らかの対応をする必要はある。単純に考えれば弁護士を入れる。のが妥当だろう。相手が弁護士を立てている以上、素人対応では何がどうなるかもわからない。
♪~
考え事をしたい時にでも電話は気軽になってくれる。便利なのは相手が誰か出る前に分かることくらいだがと携帯電話を手に取り、謙也はモニターの山崎淳二の名前を確認してから電話にでた。山崎は前の会社ソーラーパネル販売の先輩だった。そして、訪販の紹介者でもあり、辞めたとはいえ無下にできる相手ではなかった。
「はい、もしもし」
『おっ、早いな。元気にしているか?』
「ええ、先輩は?」
『まぁ、ぼちぼちだけどさ、下の方の元気が良すぎるのは問題だぞ』
「えっ?」
『出張で知らなかったんだけどな…お前解雇になっただろう。依願退職から』
「ええ、失業保険がすぐに使えるようにって」
『……悪さをした割には、馬鹿正直だな』
「えっ?」
『お前、不倫…主婦に手をだして訴えられただろう』
「…どうして、それを」
『裁判所の書類発送日をよく見てみろよ』と、溜息混じりに山崎は言った。
(なんだ?)
言われるままに謙也は封筒の消印を確かめた。四日前の消印。
「あれ」
『会社に一度届いて、総務の子がお前の退職を知らなくて受け取ったんだよ…当然うちの会社の人間は全員知っているぞ。それに、解雇だから、離職票にもきちんと、その旨が書かれているのに、お前、取りにこずにそれを次お会社に送ってもらっただろう』
「書類ができたから送るって言われたので、どうせ送ってくれるならって」
『まぁ、ミスが重なるっていうのはこういうのを言うんだろうな』
山崎は、溜息混じりに短くいった。不貞、それを意識して行うかどうかは別として訪販の会社で社員がそんなことをしていると噂が広がったら大ダメージを被る。それも人の口がたてる噂によって広がりを見せれば、会社からも賠償請求されることがあっても不思議はなかった。
「そんなことをしていませんよ」
『だったら、それを示すしかないな。俺は直接見ていないけど、書類は地方裁判所から送られてきたんだろ? だったら請求は五百万前後かな、民事調停で、事実無効と突っぱねる方法が必要だけど、遊びにった時の写真をもって怒鳴りに来て、大変だったからな』
「えっ」
『どんな相手か知らないけれど、ひとつひとつ丁寧に潰してきている感じだな』
「…潰す?」
『俺もとばっちりだぜ、ロイヤルティを減らすか、解除って言われたよ。責任追及で』
「…まさか」
『そのまさかだ。気をつけろよ…相手、怖いぞ』
「先輩、弁護士、知りませんか?」
『悪いが、しばらくは着信拒否るぜ…疫病神だからな。今のお前』
山崎はそう言うと電話を切った。