空模様…こんなひとつのラヴソング 65(幻想曲21) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

あゆみは、バスタオルで身体を拭きながら一真の詩を聞いていた。

突然だった。光があり、見えていたものが突然に消えた。

闇の中に引きずり込まれるような感覚があった。

何もかも、無駄に感じて、ただ、為すがままに、終わるのを待つしかないと思わなかったわけではない。

どれだけの時間があったのかわからないけれど、差し出された手が、かけられた声が、真っ暗な世界に光を与えてくれた。

たぶん、テレビから流れている歌は自分に向けられた訳ではないけれど、1人じゃない事をありがたく思った。

助けてくれたのは、恋人つきの男だったけれど、それでも、一人でないことに感謝した。

(謝らないと)


「酷いよね」

「あっ?」

「あたし…」

「何で?」

「知らないとはいえ、あなたが追いかける、追いつくべきゴールとしていてって」

「そうだな…でも、それは、一真より」

「あなたに?」

「ああ…俺にだ」

「自己中?」

「そんなものさ、アーティストなんだから」

「駄目よ、謙虚に生きないと」

あかねは、クスッと笑いながら言った。それを見て、新九朗が笑い出す。

新九朗が、あかねを責められるわけも無かった。茜が一真にかけた言葉は、新九朗が、一真にかけようとした言葉でもあった。何がどう、という事ではなかったが、何故か、一真に惹かれていた。惹かれて追いかけて、同じものを求めようとしていた気がする。でも、それは、無理な目標だと何処かで気付いた。

一真は同じ詩を奏でない。

そのときそのときの感情のままに、零れるように言葉をこぼしていく。

それを誰かが繋ぎとめ、形に変えていく必要がある。

それに気付いたとき、見えなくなりそうだった一真の背は消え、数馬の正面が見えるようになった。

一真を追いかけるだけでは駄目だった。

そのことに気付けないままに追いかけ、焦る日々の中で、一真は、不意に距離をとった。それは絶妙なタイミングでもあった。それは、きっと、そのタイミングだったのだろう、と思うようにしたが、何処か、心に残る棘のようにも感じていた。

たぶん、それを言った事で茜にもそんな棘が刺さっているのだろう。

だから、気にしている。

そう思えた。

「そうだよな」と、新九朗は、あかねにキスをした。少し体重を乗せるように、押すように。

「んん」

「ん?嫌だった?」

「莫迦…後ろは?」

「あっ」

新九朗は、振り返らずにあかねに尋ねた。

「ホント、莫迦」

「すまん」


(あちゃぁ~)

あゆみは、溜息をついた。完全に出て行くタイミングを逃した。

新九朗とあかねは、間もなく重なり合うだろう。自分がここにいることを忘れて。

此処は新九朗の部屋で、あかねが新九朗の恋人だ。そうなるのは不自然ではない流れだ。此処で、突然止まる方が不自然なのかもしれない。完全に脱出のタイミングがつかめない。


「どうするの?」

「そうしよう」

「あのね」

「うん」

「いや、意見を言うんじゃなくて」

「あれ…まぁ、そうだな、普通に」

「普通にね」

あかねは苦笑をしなら鸚鵡返しをした。


(い、いまかな…でるのは)

あゆみは、動きが止まっている二人を気にしながら何度もバスルームから顔を出しては引っ込めていた。