これも恋物語… 第4幕第2章改正版【Bパート】 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

音祢のアルバイト先は、音祢は言わなかったが呑み屋だと知っている。年齢的にそこで勤める事はできないはずだから年齢を偽っているのだろう。それを知ったのは偶然だった。アルバイト先の友達、先輩にもあたる水木亮子とバイトあがりの休憩をする為に喫茶店に入ろうとした時だった。音祢は、真奈美に気付かずにある店の階段を上がっていった。

「どうしたの?真奈美」

「えっ…知り合いが、あの店に入って行ったみたいだから」

「ガールズバーね…」

「知っているの?」

真奈美の質問に亮子は、苦笑した。知っていると言えば知っている。知らないと言えば知らない。ただ、それだけの事だが、真奈美に話をしても良いのかという迷いがあった。少なくとも真奈美は、亮子からすれば無垢な存在だった。それなりに色んな経験はあるだろうが、どれもこれも、これから好奇心に突き動かして学んでいく年齢の無垢さがあった。

真直ぐに向けられた視線。そこにあるのは単純な好奇心だろうか。それとも…。

「(遅かれ…早かれかな…)…入ろう…」

亮子は、予定していた喫茶店の扉を押し開きながら言った。

慣れた様子で、カウンターで注文し、ドリンクを受け取って席に着き、少しの間を空けてから、真奈美に微笑みかけた。

「?」

「仕事の内容は、しっかりとはわからないけど…スナックのホステスみたいな仕事ね…18歳からって書いてあったから電話してみたら…『高校生は駄目です…卒業して20歳になってからね』って、すっごく軽い感じで断られたよ…」

「そうなんだ…」

「……でも、年齢を偽るのって簡単なんだ、誰でもできるし、相手もそれを信じるからね」

亮子は、少し考えてから言った。わざわざ好奇心を煽る必要は無いと思う。でも、中途半端な知識で動いたら、それが、原因で、どうにも成らない事に繋がったら、きっと目覚めが悪い。だからこそ、知っている情報として言う事にした。それも、当たり障りの無い程度に。

「証明とかは?最近は煩いんですよね?」

真奈美は、窓から見えるガールズバーのネオンを気にかけながら尋ねた。証明する事が必要なら、どうやって証明したのだろう。それって…。色んな予備知識が頭の中をめぐった。テレビ、雑誌などで氾濫する知識は、大人以上に詳しいかもしれない。

「…いいわ、よく見て」

亮子は、財布から免許証を取りだした。

それを真奈美は受け取りよく見た。18歳の亮子が持つ免許証だから、車の処に印が入っていても不思議ではない。原付と普通自動二輪も持っているようだ。特に変ったところは見当たらない。とはいえ、自分は持っていないので何処がおかしいかもいまいち解らないが…。

「これも…」

追加で出されたのは学生証だった。それも真奈美と同じK高校の。

「(あれ…)…学校違いますよね」

「違うよ…大体、着ている制服が違うでしょ…」

「うん…お嬢様学校ですよね…」

「嫌味?」

「へへっ…」

「嘘をつくのは簡単、証明を得る方法は幾つかあるけど…免許証が一番信用されるかな」

亮子は、苦笑しながらそう答えた。入手ルートに関しては、興味を示さなければ話すつもりは無い。もしも、必要なときには話すかもしれないが、できれば聞いてきて欲しくは無かった。そして、それに携わる顛末についても。

「亮子さん…」

「あっ、変な事には使ってないわよ…ただ」

「…使おうと思っただけ?」

「まぁ、そういうこと、ね」

亮子は、あっけらかんとして笑った。そして、「ただ、自分には使う勇気が無かった、だけ」。と、付け加えた。もちろん、使う為に手に入れた。ただ、それを使わずに済んだだけにすぎない。いや、使わずに、お金を稼ぐ方法を見つけただけだった。

『勇気』ってなんだろう。真奈美は、その事が気にかかった。凄く便利な言葉として知っていた。大人は、気軽に「勇気」を口にする。その言葉にどれほどの意味が込められているのかなど考えもせずに。そして、その言葉の為にどれほど傷付いているかも知りもせずに。

そして、概ね自分たちが使う時、その言葉がもたらす結果は悪い方にあった。

「どうしたの?真奈美」

「えっ…あっ…その興味本位ですけど…」

「?」

「もっと詳しく聞いても良いですか?嫌じゃなかったら」

「したいの?」

「ん~、したいというよりも、大人に化けて何がしたかったのかな?って」

「何も…ただの憧れ」

亮子は、クスっと笑みを零した。それでごまかせるわけではない。ただ、そう思っていたのも確かだった。大人、その響きに何かしらの憧れがあった。誰もが、追い求めるような幻想の形が。

「憧れ……か」

真奈美が亮子に質問する事は多い。バイトのローテーションの関係もあるが、新人教育をしたのは亮子だったからだ。真奈美の質問は、比較的にストレートだ。公私関係なくされる質問の軽快さが亮子は好きだった。妹がいたら、こんな感じなのかもしれない。と、思っている部分もあるせいか、面倒臭がらずに相手ができるのかもしれない。

「なんだろうね…憧れって」

「ん~?…なんだろう」

「あたしが、これを作ったのは…高校入ってすぐなんだ」

亮子は、呟き苦笑しながら免許証をなおした。

少し遠くを見るような視線に真奈美は後悔していた。聞かない方が良かった質問かもしれない、と。

亮子が16歳の時、クラスメイトの妊娠騒ぎがあった。

私立女子校で初等部から大学までエスカレータ式のその学校では男女交際を禁止していた。カトリック系の学校にはよくある校則だったが、特に絶対という事ではなく、教諭たちも見て見ぬ振りをしていた。それまで大した問題も起こっていなかった所為もあるのだが…。

その妊娠騒ぎの女生徒に対して担任教諭が「交際をしてはいけないとは思わないが、もう少し自分の身体を大切にしなさい」と言ったのを亮子は、保健室のベッドに寝転んだまま聞いた。特に怒るわけでもなく、相手の事を問いただすわけでもなく、静かに淡々と話す教諭の言葉を聴きながら、亮子は、自分の行動を反省していた。

エスカレータ式の学校は、余程の事が無い限り進級する事ができる。その為に、どうしても興味が学校以外のところに向いてしまう傾向にある。

亮子も友達と数人のグループで高等部進級後のバイトについて話し合っていた。

どんなバイトがしたいのか。

どんなバイトの給料が高いのか。

お金を得たら何をしようか。何がしたいのか。

と、進級が決定して以降そんな話で盛り上がっていた。

一番にあったのが異性との事だ。学校内には男性がいない為に関わりは全て学校外ということになる。

次にあるのが、バイトに対する憧れだった。中学生には許されていない事が、高校生になった途端に許されるようになる。正確には、容認される程度だろう、が。

恋、バイト、性……数え上げればきりの無い経験した事の無いことに対する憧れがそこにあった。なによりも雑誌などで知らされる初体験記事への焦りもあった。

「自分の身体を使って稼いで何が悪い?」そういう考え方もありだと思った。

実際にそういう友達もいた。

隣で担任に話をされている女生徒もそんな仲間の一人だった。

売春、援助交際。捕まらなければそれでいい。そういう考えもあった。

お水に、風俗、雇ってくれるならそれでもいい。

ブルセラ等など、稼ぐ手段は幾らでもある。

亮子もブルセラを利用した。興味本位の部分だったが、親が買ったパンツ一枚、洗濯せずに店で売るだけ、それだけで、パンツが何枚も買えて遊ぶ事もできた。苦労の無い稼ぎ方がそこにはあった。回数を重ねても価値が下がるだけなので頻繁にはできないが、それなりに高値で買ってもらった。

中には注文を貰って、その通りの物を作る子もいたが、さすがに注文を聞かされた時に辞めた。

デートだけ。そんなバイトもあった。一回のバイトで、今の半月分くらいのお金になる事もあった。

でも、何かが欠けていくようで辞めた。

結局、選んだのは、接客業。安いバイト料の接客業だった。

いまだに何がかけたのか解らない。ただ、2年かけて、何かが埋まった気はする。

たった2年。もう2年。同じ2年でも感じ方は人それぞれだろう。

世間も随分変わった。なんて年寄り臭く感じる言葉普通にでる2年だった。特に何かがあったわけではない。たぶんあの事件に比べたら全てが平穏に過ぎたのだと思う。

軽はずみな行動。ただ愉しく過ごしたかっただけだった。愉しく過ごすためのお金が欲しかった。その結果、何かが欠けた。欠けた何かは多分解っている。でも、その事に気付きたくはなかった。

まるでパンドラの箱だ。

いつかはその箱のふたを開けるのだろう。そして、自分が失ったものと正対する事があるのだろう。でも、いまはそれをしなくても過ごす事ができる。もしかしたら、生涯、その箱のふたを開けないで済むかもしれない。

亮子は溜息混じりに笑みを溢すと真奈美を見た。

真直ぐに向けられた視線が痛かった。

真奈美が思っているほど自分は真直ぐには生きて来られていない。自分の過去の全てを晒す事ができるほど、生き方は成功していない。生き方を口にするほど年も取っていないが…。

亮子は、視線を一度落としてから真奈美を見直した。

「あっ…話しにくいことならいいですよ…」

「……ん、ううん、そうじゃなくて」

亮子は、アイスコーヒーを一口飲むと目を一度閉じた。誘われるままに、誘うままに仲間が増えていた。そこにあったのはお金というものの魔力なのかもしれない。楽して儲けることのできる魔力。使うものは自分の知恵と身体だけ。そこに罪悪感はなかったし、いまも踏み入れれば罪悪感すら持たないだろう。

ひとつだけ違うとしたら、自分に向けられる思いに対する気持ちがあるだけだった。

だから、踏み入れないで済む。もちろんあの日の出来事も大きいが…。

「一つ、先に聞いても良いかな?」

「はい…」

「真奈美は、高校生になって何がしたいの?」

「…何かな?なんだろう」

「じゃあ、何かできるチャンスがあったら、する?」

「ものにもよりますけど…たぶん」

「だよね、あたしは、自由に憧れたのかな」

「自由?」

「うん、もちろん、ルールがあるんだろうけど…そのルールは自分で作るものだから」

「うん」

「それって、どうかな?って思ったら、やってみたかった…できる事は全部したかな」

「したんですか?」

「うん…まぁ、あっち系の事はして無いけどね」

「あっち?」

「…うん、身体を売ること」

亮子は、クスッと笑いながら小さな声で言った。何度か、チャンスと言うか、危険はあったが、とりあえずは、行なっていない。行なわずに済んでいる。

「今は、もうして無いんだ」

「そうね、いまはしてない…時々、お金が欲しくなる時に、安易にそれに手を出そうかと思っちゃうけど…それもせずに済んでいるかな」

「そうなんだ…経験者からしたらいけないこと?」

「まさか…考え方は人それぞれでしょ」

「うん」

「必要なのは、」

亮子は、クスッと笑って真奈美の胸を指でつつきながら、「心のあり方、そして、自身のルールだとおもうよ」と続けた。

「自身のルール」

「うん、例えば、友達がガールズバーで働いている、それを知ったあなたは、彼女に自分の意見を言うのは簡単だけど、それは、思い付きじゃなくて言える?」

「……それは」

「だよね…」

「でも、話をする事はできるでしょ」

「本音で話し合いをする事で相手は離れるかもしれない、もっと仲良くなれるかもしれない…でも、大切なのは、あなたが変わらないこと…あなたのルールを変えないこと…それが間違えていなかったら、また人は戻ってくるわ」

「何か…おばさんみたいですよ…亮子さん」

真奈美は、クスッと笑いながら言った。

「やっぱり?」

「えっ?」

「バイト先の管理者の人の受け売り…」

「そうなんだ」

「うん…あっ、そこのバイトも華やかだから行ってみる?」

「ん~、今のトコロだけで一杯だからな」

「そう…」

「でも、どんなところかは聞いていいですか?」

「色んなイベントのプロディースをしている会社よ…仕事は、受付嬢とか、物運びとか」

「愉しそうですね…」

「うん、たぶん、でも安い、きつい、は覚悟しておかないと」

「………」

「あっ、もし、暇があれば登録する?」

亮子は、一枚の名刺を取り出し、メモ用紙に写しながら言った。

(トータル・プランニング・ディレクター…天城…一真…か)

「はい…あたしの登録番号と名前といえば大丈夫よ、心配ならインターネットでも調べる事のできる会社だから…」

「ありがとうございます…考えておきますね」

「うん…あっ、あたしの名前が紹介者になるのは今年度限りだからね…」

「はい」