これも恋物語… 第4幕 2 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

第2話


栞は、左手中指につけた指輪を眺めながら、足早に駅に向かった。突然の事で何がどうなのか解らないほど色んな事がおきたような気がする。いつの間にかいたギャラリーの祝福の拍手に包まれて、思わず涙をこぼした。照れくさいような、嬉しいような複雑な涙を…。

正直にいえば嬉しい。そして、困っている。

本当は、一緒にいたい。でも、それが叶わない。自分の生活という形がそこにはあったからだ。もちろん時間の経過の中で色んな出会いがあり、色んな変化がおきていく。それに対応して、生活も変わっていく。それが当り前だ。そんな当り前の中でも自分ではどうする事もできない事がある。

家族の存在。それは、何にも引き換える事のできない存在だった。自分が責任を持って、守るべき世界がそこにはある。誰もが持ち合わせているひとつの世界が…。

その世界の中心は、常に自身である。自身を中心に色々な人が存在する。最初に存在するのが、家族という区分になるだろう。それは誰かの庇護の下で守り続けられた場所であり、最初に離れる場所でもあった。

家族から離れ、世界は、突然に広がる。色んな社会という区分が生まれ、その社会の規範の中で生き続けていく。いつの間には、社会の中に新しい家族という区分が生まれ、そこが全ての中心となった。全てがそこから始まり、そこに戻る。

栞は、その中心にある家族に一真を入れていない。入れられていないのかもしれない。

全ての時間は、いま一真を中心に動いているといってもいいだろう。一真に合わせているのだから。それでも、一真が栞の世界の中心にいる事は無かった。きっとこれからも一真が中心に入ることは無いだろう。

いや、入れる事ができないだろう。

怖い。ただ、その一言に尽きた。それだけの思いに尽きた。

大切な男性<ひと>のはずなのに…。きっと何よりも大切に想っている存在なのに、怖い。いや、だからこそ、怖い。大切だから、いまそこにいてくれるから、怖い。

心は、誰かに支えられているから、揺れずにいられると誰かが言った。一人で、独りで、自分だけで支えるから心は揺れる。コロコロと転がるから心だとも言った。

感情という気持ちを支えるのは、誰かの存在が不可欠なのかもしれない。その支えてくれる存在に全幅の信頼を与えるのが怖い。自分の想いに、相手が折れたら、その支えが無くなったら、そう想えば思うほどに怖かった。

心も身体も、その存在を欲している。

でも、家族という足枷が存在するのも事実だった。

栞は、はめられたばかりの指輪を抜き取り、電車に乗った。

(結婚…か……)

いつかは、もう一度、そう想わないわけではなかった。でも、それを望む事に抵抗があった。何故、そこに抵抗があるのかは解らない。でも、抵抗は確かにあった。

形の出来上がったものが壊れる不安。それは、経験した事のあるものにしか解らない苦しみかもしれない。誰かがそれを壊す可能性は常に存在している。

(あれ…)

栞は、リングの内側に刻まれている文字に気がついた。

an oath of eternal love……どんな意味かしら)

栞は、携帯電話を取り出し、メール機能を起動させた。

「………」

しばらくモニターを見詰め何もせずにポケットに戻し、溜息をついた。

(どう思うかな…)

娘の事を思いながら、栞は、指輪を中指にはめなおした。