第8話
「あっ」
「結構、スムーズだろ…」
「遊び人…」
「まぁ、昔ね…、歩きながら話そう…幸い、30分も歩けば、家だし…」
「えっ?」
「話し終わって、お前が、それでも、って言うのなら…もっと俺をよく知ればいい…」
「………」
「まだ、聞かなくても間に合うぜ…」
「……聞きます…」
「意地っぱりだな…結構」
武は、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。別に、隠す必要の話では無い。でも、どうしても話したいという話でも無い。聞かれれば話すが、特別、それを言って歩く気はなかった。この話を最初にしたのは、天城に、だった。特に、そういう話になったわけでは無いが、なんとなくそうなって話した。天城は、聞いているという程度に、所々で相槌を打ちながら、武の話しの邪魔にならないように黙って話しに耳を傾けていた。まるで、自分の事のように、色々と考え、自分の意見を言ってくれたのは、後にも先にも天城だけだった。
天城一真が、どんな人間かは、実際のところつかみきれていない。底が見えない。と、表現するのが妥当だろうか。付き合いがよく、捌けている、と言った感じで、悩みとは無縁のような顔で人の話を聞く。それが天城だった。表面だけ見ればそれで全てかもしれない。ただ、内面的には、真摯に情熱的に考えているように取れる。それだけに読みきれない男でもあった、が、憎めない男という部分の方が強く、付き合っていられた。
このはは、天城に似ている。何処となくだが、意地っ張りな部分も、他人に感情移入しすぎる部分も。
「無理しなくていいですよ…」
「…いや…無理なんかしていないよ…」
武は、そう言いながら周囲を見渡した。他人に、全くの関係のない人に話すのは二度目だった。あの時は、夜だった。飲み明かし、家に向かう時に、天城が傍にいて、恋の話をした。いつまでも終わらない思い出話を。
それを今度は、聞きだそうとする人が現れる。人生とは不思議なものだ。巡るように、人は流れ、必要に応じて、人は立ち止まる。この出会いには、きっと意味がある。全ての出会いに意味を持たせる勇気、それが本当は必要なのかもしれない。
(人は独りではいられない…か……)
武は、苦笑しながらこのはの肩を抱いた。
(!)
「抵抗しないんだな…」
「抵抗した方が良かったですか?」
「拒絶されるのは…困るけど…多少は…」
「そう……」
「でも、もう遅いでしょ…まぁ、それはそうだね…」