これも恋物語… 第3幕 16 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

第2幕 第3話


10年前だった。その事は、武にとって忘れる事の出来ない記憶だった。

26歳のクリスマスイブ。部下に誘われるままにクリスマスパーティにでかけた。別に恋人がいないわけではない。ただ、その日の予定がなかっただけだった。彼女は、彼女で仕事にでかけている。大手航空会社の客室乗務員という肩書きのもとでは、クリスマスイブというイベントは無視されてしまう。ついでに、次の休日は、26日が予定されていた。だから、暇を弄ぶがてら、そのパーティにでてみた。

そこでひとつの出会いがあった。

ひとりポツンと会場の端で、壁にもたれかかったまま、何かを食べるわけでもなく、ワインを呑み続けている女性だった。彼女の名前は、松山明子。年齢は、新入社員程度に見えるので、22~23といったところだろう。周辺の賑やかさに、冷ややかな笑みを零しながらも調和を保とうとしている。

「何か食べないと」

武は、そう言って声をかけた。なんとなく、明子は浮いているように見えた。そして、自分自身も浮いているように感じていた。元来、こういう席は苦手だ。とはいえ、仕事上、全く行わなくてもいいというわけにはいかない。だから、勤めて愉しむようにしてきた。

楽しめない中でのパーティほど苦痛なものは無い。そう教えてくれた人がいた。彼は、自分よりも年下だ。会社関連のパーティ席上であった天城一真は、そう言って笑いかけてくれた。屈託の無い人懐こい笑顔がそこにはあった。彼のように、そうありたいと思えた。

「ありがとうございます…」

明子は、そう言って武に微笑み返した。それは、警戒心を露にした笑顔でもあった。まるで近寄る全てが敵のように感じられるほどピリピリとした空気を漂わせている。

「っと、こういう席は苦手ですか?」

「えっ?はい」

「そうですか…実は私もです…でも………」

武は、視線を明子から会場側に向けて一呼吸おいた。

「………楽しめる人がいる…つまりは、あたしの気の持ちようなのでしょうね…折角来たのだから、知り合えばいい。先の事など関係なく、今のこの一時を…知り合う時間に勤めればいい。せめて、時間の中で着てよかった、って思える事がひとつでもあればいいかな…って、思うだけで、見えるものは変わりますよ」

「……はぁ」

「あっ、俺は、梅崎武っていいます…もし、また見かける事があったら声をかけてください」

武は、会釈を残して、明子に背を向けた。

「あっ…」

「?」

「あたしの名前は聞かれないんですか?」

「…そうですね……会話は、キャッチボールでしょ…確認しあうものは必要ないと思うんです…名乗りたくなければ名乗る必要は無いですし、あえて、俺から聞くつもりはありません…俺と貴女は、偶々ここで出会っただけに過ぎません…すれ違うだけもあなたが決めて構わないのではないでしょうか」

武は、背を向けたままそう言った。特別に何かを伝える必要は、たぶんないのだろう。無理に名前を聞こうとすれば、編に勘繰られて、警戒されるだけに過ぎない。だったら、自分を示すだけでいい。それ以上の事は、もっと仲良くなってからで充分な気がする。

「……明子です」

「よろしく、明子さん」

武は、振り帰り、グラスを少し上に持ち上げるような仕草をした。そこに微笑を乗せて。

(きざだよな、これ…)と、思ってみたところで、言葉を紡ぐ方が嫌らしく思えるので、武は、そのまま食べ物を物色する事にした。


第1話

http://ameblo.jp/hikarinoguchi/entry-10006389728.html