「たく…」
「だって…」
雄大は、祥子の頭をクシャクシャと撫でながらホテルから出た。
「お兄さん…」
「えっ…?」
不意に掛けられた声に雄大は足を止め振り返った。
「えっと…藤崎のりかちゃん…だっけ?」
「…覚えていてくれたんだ」
「……まどかに怒られたからね…名前も覚えていないって」
「その声…貴女なの?」
祥子は、のりかに尋ねた。
のりかは、黙って頷き、雄大に鞄をひとつ差し出した。その鞄がカメラバックである事は祥子にも解った。
「?」
「色々考えたけど…」
「ん…」
「お義兄さん(おにいさん)って呼んでもいい?」
「ああ…いいよ…」
「これ、使ってほしいな…」
「?」
雄大は、差し出されたカメラバックを受け取り、蓋を開けた。そこには、新品のKISSが入っていた。レンズも装着されて。
「これ…」
「毎月ありがとう、それと……ごめんなさい…」
「…いいよ、別に…」
「ん、まだ、笑って話できないけど…話しが出来るようになったら、お姉ちゃんの事を教えてね」
のりかはそう言うと頭を深々と下げて駆けて行った。
「誰?」
「……お前が消し飛ばした、俺の恋人の妹…」
「雄大…」
「お前で、二人目だよな、考えれば、恋人でも、それほど親しい友人でもないの、俺を呼び捨てするの」
「ごめん…」
「いいよ……何時になるかわからないぜ…」
「えっ?」
「生きている女を見るようになるのは…」
雄大は、ポンポンと新しいカメラバックを叩きながら祥子に微笑みかけた。
「意地悪…待ち続けてやる、他に女が言い寄って着たら邪魔してやる」
「おいおい…俺はグラビア中心のカメラマンだぜ…」
了
気に入ったら、一票下さい^^↓クリックしてね