Runner 20 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

琢磨裕樹18歳。本業高校生。逃がし屋をバイト気分で行っていた時代だった。いや、逃がし屋というつもりはないだろう。ただ、法定速度外でマシンを走らせるのが好きなだけの坊やだった。

Skyline。それが琢磨の愛車だった。漆黒ともいえる深い闇のような黒のボディ。偏光性のシートを張ったナンバープレート。違法としかいえないフルチェーンされたエンジン。それはどれもが自己満足の象徴だった。

誰かが街から消える。その都度、裕樹のマシンは、速度という世界を生きる化け物へと進化を続けてきた。それを誰かが咎めるわけではない。個人の自由を尊重する親にして、自己の行動の責任は自分で取れると自負している勘違い者。それは、ある意味最高の組み合わせだったのかもしれない。何も怖いものなど無かっただろう。もし、何かが怖いとすれば、誰かを裏切ってしまうかもしれない自分の存在だけだった。

だから、友人達が離れていったのかもしれない。そう感じる頃、裕樹は、一端の逃がし屋だった。その世界からは、多分逃れる事はできない。その事を重々理解したうえで、車の鍵を手の中で躍らせた。

キーホルダーのリングを人差し指にかけ、薬指と小指で鍵を弾く。人差し指を起点にして鍵は、クルクルと廻りながら裕樹の手の中を出たり入ったりとする。それを何度か繰り返してから、裕樹は、ドアのロックをはずす。

何のための行動なのか。横で眺めながら美紗は裕樹を観察した。

藤代美紗と琢磨裕樹が組むのは、今回で13度目だ。高校生の裕樹と違って大学生の美紗は、微妙にその世界の先輩だった。新人同士、師の薦めもあって二人はチームを組んでいた。お互いがお互いの事を知ろうとしないチーム。それはそれでよかった。互いが干渉をしないという暗黙のルールが必然的に作り上げられてきたのにはそれなりの理由がある。そうしないといけなかった理由が……。

その事を知らない二人が必然的にその立場にいた。

琢磨は、逃がし屋だった。ランナーと呼ばれる職務をこなす仕事人だ。藤代も同じ職務を行っている。一つ違いがあるとすれば、ルートの選定を藤代が行い、琢磨が逃がしを行う点だろう。どちらにも危険はつきものだ。危険の度合いはその都度変わる。不測の事態が起きる可能性が高い逃がしを琢磨がするのは、藤代が女である所為だった。

その事が美紗には気に入らなかった。

男だから、女だから。そんな理由で仕事内容を二分されるのは面白くない。確かに、実力は裕樹の方が高いだろう。咄嗟の判断も、いざとなった時の術も長けているだろう。だからといって、後輩に性別上の区別を受ける気はなかった。受けたくは無かった。

仕切り屋からの最終的な指示が下りているとはいえ、面白くない内容であることには変わりはない。

できる事といえば、性別ではなく、正当な能力で図ってほしいと仕切り屋に直談判する事くらいだ。それに、どれほどの意味があるのかは解らないのだが。少なくとも、能力で区分されている、と思っていたかった。

「藤代…」

「琢磨…」

「あっと…明日はよろしくな…」

裕樹は、目も合わさずに美紗に言った。そういえば作戦の前はいつもこうだ。顔を見ようともしない。どうでもいい、そんな顔をしている割には、少しは気にしている。と、言うところだろうか。可愛いところもある。

「ええ…仕事だからね…」

「それは、そうか…でも、まぁ…信じているからさ…」

「えっ……?」

その場の繋ぎで言われた言葉にしては。裕樹の顔が優しかった。

美紗は、振り返りもせずに去っていく祐樹の背を見送った。

この世界に入ってくる人間には人に話せない理由がある事が多い。きっと祐樹もそんな一人だろう。だから、何も言わない。すべき事を淡々とこなしていく。それが生き残るための、稼ぐための唯一の方法でもあった。

大切なのは、結果を出す事だ。経過は問わない。結果だけが全てである。All or noting.全てがそうだった。賭けるべきは、自分の命だけ。その結果に得るものは金だけ。後は何も無い。何も残らない。それがルールでもあった。