その頃、裕樹は、ホテルに戻っていた。いや、正確には、夕凪が与えられた部屋の上の部屋にきていた。窓を開け、緊急非常階段を下へと降ろし、風吹く中、降りていった。一応、この部屋には誰も進入していないのは、エレベーターホール等に先に着ている仲間が確認済みである。
裕樹は、窓をダイヤモンドナイフで切り、部屋の中に侵入した。
(目的の物は…と)
Bと呼称されるものが何であるかはわからない。だから、テーブルに出されている全ての小物を回収する必要があった。正直に言えば、訳の解らない事で命を落とすのは遠慮したい。だからこそ、謎は残さずに調べるようにしている。
裕樹は、『何でも屋』である。と、いっても便利屋ではない。それぞれに仕事のパートが決まっている。当然ながら仲介もする。その中で、裕樹のする仕事は、『ランナー』。逃がし屋である。予断になるが、裕樹の仲間には、『情報屋』『追跡屋』『盗聴屋』『掃除屋』『医師屋』などなど、用途にあわせて一杯ある。これを纏めるのが『仕切屋』である。
(これって…『回収屋』の仕事のはずなんだけどな…たくっ)
裕樹は、テーブルの上の物を全て袋に入れると、窓から上の階へと戻っていった。
「っで…成果は?」
「さぁな…」
裕樹は、出迎えてくれた回収屋に荷物を渡すと中身の確認を急がせた。
「あまり、ゆとりがなさそうね…」
仕切屋が苦笑しながら言う。その通りだった。裕樹がやっているのは駆け引き以外の何ものでもない。多分、答えの出せない夕凪は、しばらくあの店に留まっているだろう。だが、それも1時間も留まっていてくれれば良いほうだ。
それ以上の時間は考えないでおきたい。大体、よく知らない相手の行動をそれほど正確に読み取れるわけがないのだから。
残り時間は、40分ほどだろう。ホテルから店に戻る時間を判断して、後30分程度で答えが見付からなければ、解らないまま動く事になる。できれば答えを知ってから動きたいものだ。
その部屋には、仕切屋、情報屋、回収屋、盗聴屋がいる。
「ン…これだな…」
情報屋が、カプセルの入ったパッケージを手にして言った。
「?」
「内容物の製品番号が打たれていない…それに、このカプセルの中身…生きてるぞ…」
「生きている?」
「ああ…Bっていうのは…」
「B兵器か…」
「たぶんな……」
「じゃあ…逃がす分の金にはなるか…」
裕樹は、他のみやげ物らしいものを袋に戻し、回収屋に渡した。
「へいへい…」
「俺は、店に戻るよ…」
「ん…気をつけて…」
第1話へ
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