これから… 8 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

何をしたんだろう。弥生は…。時々、良くそんな事ができるな、と感心するような事をしてくれる。その瞬間の思いつきで、その一瞬だけの正解を実践する行動力には良く驚かされたかもしれない。自分の思いを止める事をしない。その所為で幾つもの失敗をしているのに、懲りもせずにやってくれる。

そこに悪気は無い。だから良いというわけではないが…。

さて、今回の事は……。

健太は、本棚にさしてあるクリアファイルを手にした。

(婚姻届……ん?)

クリアファイルに挟まっているコピーは、婚姻届けだった。それも自分の名前が書いてある。字の筆跡は、自分の物だった。相手のところには、弥生の名前が書いてある。弥生の字で…。

(これは……確か…)

健太は、クスッと笑みを溢し、弥生の日記を片手にベットルームへと向かった。もう笑う以外にする事は無い。文句を言おうにも相手がいない。騒いだところで何も変わらない。たぶん、全てが弥生の予定通りにことが進んでいたのだろ。その中の一つの誤算が、死という現実だったのかもしれない。

ベットルームでは、麻奈が吐息を立てている。

そこにいるのは戸籍上でも自分の娘だ。

別居していただけで、紛れも無く自分の娘だった。弥生に似ている。何よりも寝顔が、何処と無く幼少の頃の自分に似ている。

健太は、ベットに腰を掛けて婚姻届のコピーを見た。クリアファイルからコピーを抜き取ると一枚の紙が零れ落ちた。

(ん?)

―健太、見つけてくれてありがとう

 これを書いている私は、今日、余命の先刻を受けました

 本当は、貴方に会って色々と話したい事があったけど何から話せば良いのか整理がついていません

 だから言葉で少し残しておきます

 いえる時間がなかった時の為に…

 

 ちょっとした悪戯

 そのつもりで家をでました

 ううん…気持ちの整理をつけたくて家を出ました

 2~3日、早苗のところにいました

 そこで麻奈の事を気付きました

 元々生理不順だったので気にしていなかったの

 でも、早苗に勧められて妊娠検査薬を試してみて

 家に戻ったわ

 でも……

 麻奈を私生児にはしたくなかった

 だから、これはあたしの一つの賭けです

 貴方が戸籍を取った時、この事が解る事になると思います

 ごめんなさい

 他に方法が思いつかなかったの

 ごめんね

 でも、もし良かったら麻奈をお願い  -

(弥生…)

健太は、はーっと溜息をつくと天井を見上げた。

あの日、弥生がいなくなった日、健太は、同じように天井を見上げて何度も溜息をついた。そこにいるのがあたり前の人がいなくなった。その突然の出来事に呆然とした。何も考えられずに、時間がだけがすぎていった。そして、出した答えが「幸せになってくれれば」という勝手な想いだった。

何故追いかけなかったのだろう。

思い出にひきづられるのが怖くて翌日には引っ越した。

違う。追いかけて、言葉で、態度で拒絶されるのが怖かった。初めての恋人に。

ちっぽけな存在だ。

今更ながらにしてそう思える。自分の小ささがどうしようもなく虚しく思えた。

 

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