飽きっぽい僕は、一度この講師の仕事を思いっきり離れたことがあります。


 それでもなお、戻ってくる理由というと、それは大学生の時の個別指導の経験が大きいのでしょう。


 当時の自分は、19歳くらいでしょうか、相手は17・18の大学受験生。


 頭は金髪で、高校は三か月で退学したと。全く勉強から遠ざかっている。ただ、大学は行きたい。


 都立大(今の首都大東京)に行きたいと。


 無理だ(だって I はかろうじて「私は」と分かるが、my になると判別できないレベル。そして、時期は9月)


 とりあえず、私立文系にして、根気強く英語と現代文を教え始めます。


 ある時から、彼は自習室に一番早くに来て、一番遅くに出て、一日十時間くらいの勉強を開始しだします。


 金髪で、よく頭にタオル巻いているにーちゃんが、どの生徒より勉強している光景。


 異質な光景ですが、どんな状況からだろうと、人は変わることができて、前向きに生きることができるんだと。


 あるとき、彼が周囲の講師に、「何でそんな頑張るようになったの?」と聞かれてます。


 「俺の場合は、肘井さんに出会ってから。あの人に出会ったおかげで、人生が変わりつつある」と。


 そう、いまだに合格体験記なんかに生徒が書いてくれます。肘井さんのおかげで、人生が変わりましたと。


 偏差値の高さなんて問題じゃなくて、今の自分からどれだけ先に進めたか、成長度合いが大事なんです。


 最終的に、彼はK大学に受かります。世間一般としては、そんなに偏差値の高い大学ではありません。


 けれど、myすら分からなかった生徒が、半年でこの偉業を成し遂げることが、どれほど凄いことか。


 そう、僕の原点とは、生徒に成功体験を与えてあげること、自分だってやればできるんだって。


 この仕事が、対保護者という点においてサービス業という側面を有していることはわかります。


 けれど、他のサービスで、誰かの人生を思いっきり変えられる、そんなものが存在するでしょうか。


 そうです、人の人生を変えられることこそ、教育業の最大の醍醐味で、僕らが最も誇りに思うべきこと


 業界的に苦しい時期だけど、そんな時こそ原点に立ち返って、誇りを取り戻さなければいけないのでは…