みなさん、こんばんは^^

 

 

 

お元気に過ごされていましたか?

 

 

 

ずいぶん長くご無沙汰してしまいました。

 

 

 

気がついたらもうすぐ4月も終わり、

先月は1回だけの更新で、

今月は今日が初めての更新となりました。

 

 

 

先日、

熊本で大きな地震がありました。

 

 

 

地震に遭われた方々に、

心からお見舞い申し上げます。

 

 

 

今も余震が続き、

不安な毎日を過ごされていることと思います。

 

 

 

地球は生き物ですから、

時に無慈悲に人に試練を与えますが、

決して明けない夜はありません。

 

 

 

どうか一日も早くみなさんに

落ち着いた毎日が戻りますように。

 

 

 

 

 

 

さて、今日も妄想小説です。

今日は「桜」という読み切りです。

 

 

 

「青い空を見上げて」とは

全然関係がありません。

 

 

 

桜はもう散ってしまいましたが、

サクラミチを思い出して、

どうしても桜をテーマに書きたいと

思いました。

 

 

 

やっつけで書いたお話なので、

ところどころおかしいですが、

どうかお気になさらずに。

 

 

 

これは全部フィクションです。

広い心で読み流してくださいね。

 

 

 

BL小説ですので、

苦手な方はここでページを

変えてくださいね。

 

 

 

次回はまた、

「青い空を…」の続きになります。

 

 

 

どうかまた、

みなさんにお会い出来ますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「美味しい?」

 

 

 

「すっごく美味しい」

 

 

 

喉を鳴らしながら

勢いよくパスタを食べるヒョンの姿は

どこまでも幼く見える。

 

 

 

パスタを食べる合間に

コーヒーをごくごく音をたてて飲みながら、

サラダに手を伸ばす。

 

 

 

「パスタ好きですね」

 

 

 

「パスタが好きって言うんじゃなくて、

チャンミナの作る料理が好き」

 

 

 

フォークに巻いたパスタを食べながら、

上目遣いに僕を見て、

いたずらっぽくヒョンが笑ってみせた。

 

 

 

「なんかその言い方微妙ですね。

褒めてるんですか」

 

 

 

言葉通りだよ、と目を細めたヒョンの口が

マグカップのコーヒーを飲み込んで、

小さく息をついてカップを置いた。

 

 

 

「チャンミナは料理の天才」

 

 

 

真顔で言われて、

思わず僕はうつむく。

 

 

 

「大げさですね。

何度か作れば誰だって作れますよ、

これくらい」

 

 

 

つっけんどんに答えた僕に

ヒョンは首をかしげて見せる。

 

 

 

「そうかなあ」

 

 

 

オレには作れないよ…と

まじまじとフォークに絡めた

パスタを見つめるヒョンに

あなたはそうでしょうよ、と声には出さずに

心の中でつぶやく。

 

 

 

料理が美味しい、まるでプロだ、

そんなヒョンの褒め言葉の連呼は

今に始まったことではなくて、

言われる度に僕は軽くいなす。

 

 

 

実は陰でこっそり練習してますなんて

口が裂けても言いたくない。

 

 

 

以前は料理なんて興味がなかったし、

作りたいとも思わなかった。

 

 

 

以前寮で一緒に生活していた先輩が

すごく家事に長けていたので

負けじと頑張った結果が今のこれだ。

 

 

 

ヒョンに料理を作ってあげて、

喜んだ顔が見たいなんて言いたくないし、

 

 

 

それによって、

自分のことをもっと好きになって欲しいなんて

そんな下心があることは、

絶対ヒョンには知られたくない。

 

 

 

「ねえ、これ写真に撮ってもいい?

オレの名前じゃなくて、

ジヘの名前でインスタに上げるから」

 

 

 

妹のインスタにアップする。

 

 

 

もちろんチャンミナの名前は

絶対に出さないから。

 

 

 

料理を食べ始める前に、

テーブルに向かってスマホを向けて、

「これ、撮りたい」と、

ヒョンが遠慮がちに言った。

 

 

 

ダメです、と即座に言い放つと、

ヒョンはしょんぼりと肩を落とした。

 

 

 

「こんなに美味しそうなのに。

食べたらなくなるんだよ。

もったいない」

 

 

 

全くいじらしいな、と僕は

唇を引き上げながら、

首を横に振った。

 

 

 

「それはだめ。

そういうことはしないほうがいいです」

 

 

 

「なんでしないほうがいいの?」

 

 

 

「いくらでも作ってあげますから、

インスタに載せるのだけはやめてください」

 

 

 

眉間にしわを寄せたヒョンは、

納得がいかないという顔をしつつも

僕の言葉に小さくうなずいて、

両手を合わせた。

 

 

 

僕は、「いただきます」という

ヒョンの声に目を細め、

ティーポットを自分のほうに引き寄せた。

 

 

 

本音は嫌じゃない。

 

 

 

だけど形になったそれらを、

誰の目にも触れるインスタに残すのは

抵抗を感じる。

 

 

 

僕は、いつも心のどこかで恐れている。

 

 

 

僕達のこの関係が、

いつか終わってしまったとしても、

淡い恋の思い出として笑い話に出来るなら

インスタに残しても構わないが、

 

 

 

決してそうはならないと言い切れるから

安易な形で残して欲しくないと

思ってしまう。

 

 

 

時過ぎてから

それらを見て思い出し、

思い出に縋ってしまうだろう自分が

僕はたまらなく嫌なのだ。

 

 

 

友人のギュやミノと

ふざけて写真を撮るのとは違う。

 

 

 

僕はこの人に恋をしているから、

 

 

 

僕にとって初めての真剣なこの恋は、

マニュアル通りにいかないことが多すぎて、

みっともないことが多くて、

恥ずかしくて、

 

 

 

だからこそ、

どんな形でこの恋が終わるにせよ、

色濃く自分の記憶に残ってしまうことが

容易に想像がついた。

 

 

 

綺麗にパスタを平らげると

ヒョンは長い指先でティッシュを取り、

口を拭いた。

 

 

 

「今日の仕事は何時からだっけ?」

 

 

 

「夕方からでしたね、確か」

 

 

 

「夕方からか…」

 

 

 

テーブルを指先でトントンと

叩きながら、

ヒョンが外を見つめて

頬杖をついている。

 

 

 

「外は天気がいいですね。

どこか行きましょうか。

せっかくヒョンが早起きしたんですし

どこにでもついて行きますよ」

 

 

 

僕がそう言うと、

不意に思いついたように、

ヒョンは口火を切った。

 

 

 

「じゃあ、

桜でも見に行こうか?」

 

 

 

「え、まだ桜が咲いているんですか?」

 

 

 

うん…とうなずいて、

相変わらず頬杖をついたまま、

ヒョンは視線だけを僕に向ける。

 

 

 

「もう終わりだと思うけど…

マネさんがまだ咲いてる所があるって

言ってた」

 

 

 

「本当ですか?」

 

 

 

もう4月になっている。

事務所のみんなと花見をしたのは

先月末のことだ。

 

 

 

外はこんなに暖かいのに、

まだ桜が咲いている所があるとは

到底思えない。

 

 

 

「オレを花見に連れて行きなさい」

 

 

 

「どうしてそこで

そんなに偉そうに言うんですか」

 

 

 

テーブルから立ち上がり、

トレーを持ってキッチンに向かう背中に

僕は問いかける。

 

 

 

するとヒョンは足を止め、

トレーを持ったまま戻って来た。

 

 

 

「だって、

チャンミナが言ったんじゃないか。

どこかに行こうか、

どこにでもついて行くって」

 

 

 

さっきは不遜な口調だったのに、

そう言った直後、

ヒョンは拗ねたように

唇をきゅっと結んだ。

 

 

 

「…言いましたけど」

 

 

 

確かに言い出したのは

僕のほうだ。

 

 

 

顔をしかめて僕がつぶやくと、

ヒョンが「そうだよ」と力強く言い、

おどけた口調でさらに念押しした。

 

 

 

「早起きしたご褒美に

オレをお花見に連れて行ってください」

 

 

 

仕方なく、分かりました…と

唇を尖らせた僕にヒョンは苦笑して、

「そんな顔しないで」とつぶやく。

 

 

 

「意地悪したわけじゃないんだから」

 

 

 

ふふ、と小さく笑って、

するりと僕の髪に指が通されて、

頭を優しく撫でられた。

 

 

 

その手が後頭部で止まり、

ヒョンの顔が近づいてくる。

続いてチュッと小さなノイズと共に

僕の頬に唇が触れた。

 

 

 

「一緒に出かけたいだけ」

 

 

 

じろりと睨んだ僕は、

すかさずヒョンの腕をつかんで

自分のほうに引き寄せた。

 

 

 

驚いて目を見張ったヒョンの唇に

かぶせるように自分の唇を重ねる。

 

 

 

ふんわりとした唇を

軽く舌先で何度かつついて

開くように促して、

わずかに出来た隙間に舌を差し込んだ。

 

 

 

わざと音を立てて吸い上げ、

最後にヒョンがしたよりも

派手な音をたててから唇を離すと

わずかに目元を染めたヒョンが言った。

 

 

 

「…怒ってないよね?」

 

 

 

「怒ってないですよ」

 

 

 

ヒョンの手から

トレーを強引に奪い取る。

 

 

 

うそだ、絶対怒ってる、と

首を傾げながらキッチンについてきた

ヒョンを無視して

僕は皿を食洗機に突っ込んだ。

 

 

 

「どうして怒るの」

 

 

 

「怒ってないです」

 

 

 

だんだん慌て始めたヒョンの反応が

面白くてわざと怒ったフリをしながら

リュックを持って玄関に向かう。

 

 

 

ヒョンもそばに置いてあったリュックを

無造作につかみ上げると、

早足で僕について来た。

 

 

 

「それじゃ財布落としちゃいますよ」

 

 

 

がら開きになっているリュックの

ファスナーを指差すと、

ヒョンが「あ」と小さく声をあげ

そそくさとファスナーを引っぱり上げる。

 

 

 

その様子を見て、

僕は吹き出した口元を手のひらで隠し、

玄関前のスペースから

自転車を引き出した。

 

 

 

「車じゃなくて自転車で行くの?」

 

 

 

「そうです。

じゃんけんをして勝ったほうが自転車に乗る。

信号毎にじゃんけんのやり直し。

面白いでしょ。どうですか?」

 

 

 

本気で言っているのか?と

最初咎めるような目で僕を見たものの、

エントランスまで行くと、

ヒョンは「負けない!」と目を輝かせる。

 

 

 

「勝負じゃないんですし、

のんびり行きましょうよ」

 

 

 

見事に初戦で一勝した僕は、

はっはっは、と

わざと大きな笑い声を立てた。

 

 

 

「はい、スタート」と言って、

僕は自転車にまたがる。

 

 

 

流すようにゆっくりと走る僕の横に

ヒョンはジョギングしながら

ちゃんとついて来た。

 

 

 

「このままゴールまで

オレが走るほうでもいいよ」

 

 

 

「ヒョン、楽しそうですね」

 

 

 

そう僕が言うと、

苦しげに息を切らしながらも

ヒョンは無邪気に笑いかけてくる。

 

 

 

汗でしっとりと濡れた額と

風になびく髪を見ながら、

僕はぼんやりと考えた。

 

 

 

来年の今頃、

僕達二人はここにはいない。

 

 

 

また二人で

ここに来れるかどうかすら

定かではない。

 

 

 

「ヒョン、楽しいですか?」

 

 

 

「うん。チャンミナは?」

 

 

 

首筋に汗の粒が

流れ落ちるのが見える。

膨らんだ喉仏が上下している。

 

 

 

僕はふっと口元を緩めた。

 

 

 

「僕もです」

 

 

 

 

 

 

 

 

マネージャーが言っていた

桜がまだ咲いているという場所は

自転車で20分くらいの所だった。

 

 

 

ゆるい坂を登りきり、

あまり人気がなく遊具も少ない

小さな公園の中に

ひっそりとその桜はあった。

 

 

 

時々休みながら来たものの、

僕もヒョンも玉の汗を流していた。

タオルで乱暴に汗を拭いながら、

大きく息を吐き自転車を止める。

 

 

 

木立の間から街が見下ろせる芝生の上に

ヒョンが腰を下ろす。

 

 

 

自販機から水を買ってきた僕は、

隣りに腰を下ろしながら、

無言でヒョンの目の前にそれを突き出した。

 

 

 

ヒョンがキャップをひねり、

喉を潤すのを見てから、

僕も自分の分を開ける。

 

 

 

弱い風が吹き抜け、

ひらひらと桜の花びらが目の前で舞った。

 

 

 

葉が目立つ木に

わずかに残った桜の花びらは、

あと数日で全て散ってしまうだろう。

 

 

 

しばらくお互い何も話さずに

黙って桜の木をながめ、

そよぐ風の中に身を任せていた。

 

 

 

「来年はこの桜を見られないな」

 

 

 

「…そうですね」

 

 

 

ヒョンの言葉に

僕は静かに相づちを打つ。

 

 

 

「咲き始めも、満開の時も、

散り際でも、

いつ見ても桜は綺麗だね」

 

 

 

そうですね…と僕がうなずくと、

ヒョンがまっすぐに僕を見つめてきた。

 

 

 

僕達の間を風が通り抜けて、

ひらりと桜の花びらが舞い降りて、

ヒョンの髪に落ちた。

 

 

 

僕はそれを指先でそっとつまんで

ヒョンに向かって差し出した。

 

 

 

その瞬間、

ヒョンが花びらを受け取りながら、

怪訝そうに眉をひそめて

僕の顔をのぞきこんできた。

 

 

 

「…チャンミナ、どうしたの?」

 

 

 

「別に。何も」

 

 

 

僕が小さな声で否定すると

ヒョンは目を眇めた。

 

 

 

来年、僕達はここにはいない。

この桜を見ることが出来ない。

 

 

 

ただただ、

その事が不安で。

 

 

 

時間がこのまま止まればいい。

 

 

 

でもそんな弱気を

明かすわけにはいかない。

先に旅立つヒョンが、

ちゃんと覚悟を決めているというのに。

 

 

 

「何でもないんです。本当に」

 

 

 

「もしかして不安なの?色々なこと。

そんなにオレを信じられない?

隠してないで話してくれないか」

 

 

 

言外に自分のせいで

僕を不安にさせているのかと

聞いてくる。

 

 

 

寂しいなんて子供みたいなことは

絶対に言えない。

恥ずかしさで体温が上がってくる。

今、僕の頬や耳は赤くなっているだろう。

 

 

 

多分、

ヒョンの目にはそれが映っている。

 

 

 

顔を覆ってしまいたくなる自分を

ごまかすように僕は水を煽った。

 

 

 

「わかりました。話します」

 

 

 

うん…と、

ヒョンが視線で促してくる。

 

 

 

話すとは言ったものの、

どう話せばいいのだろうと

僕は再び言葉に詰まった。

 

 

 

やっぱり話さないという選択を

ヒョンが許してくれるとは

僕には到底思えなかった。

 

 

 

他でもない自分自身が

僕を不安な気持ちにさせていると

心配しているヒョンならば。

 

 

 

僕が口を閉ざし、数分が過ぎた。

 

 

 

前々から考えていたこと。

決してかなわないだろう僕の夢。

 

 

 

「実はお願いが一つあるんです。

いいでしょうか」

 

 

 

「お願いって、何?」

 

 

 

「誰にも言わないで欲しいんです。

…二人だけの秘密にして欲しい」

 

 

 

ヒョンは首を傾げながらも

柔らかく笑ってうなずいた。

 

 

 

「わかった」

 

 

 

「本当に本当の秘密ですよ」

 

 

 

「わかった。

絶対に誰にも言わない」

 

 

 

ホンベクさんにも?とたずねると、

誰にも言わないと宣誓するように

ヒョンは手を上げた。

 

 

 

誓うと言ったからには、

ヒョンならこの事を

誰にも言わないだろう。

 

 

 

「絶対にですよ」

 

 

 

「絶対に」

 

 

 

実行すると決めた途端、

僕の鼓動が早まり始め、

桜の花びらがざあっと音を立てて

散るような気がした。

 

 

 

「ヒョンを信じます。

絶対誰にも話さないっていう約束を」

 

 

 

僕は思い切って、

リュックの中から紙を1枚取り出した。

 

 

 

4つに折り畳まれたその紙は、

以前いたずら心で事務所の人間から

もらったものだった。

 

 

 

こんなのただの紙きれじゃないかと

当時の僕は笑い飛ばした。

 

 

 

今となっては、

そんなふうには思えない。

 

 

 

僕はヒョンの目の前に紙を広げた。

ヒョンは食い入るようにそれを見ている。

僕はペンを差し出した。

 

 

 

「ここに名前を書いて欲しいんです。

ヒョンの名前を」

 

 

 

「韓国語でいいの?」

 

 

 

「韓国語でいいです」

 

 

 

これは日本語の書類なのに?と

いぶかしげに僕を見返しながらも、

ヒョンは理由を問うこともなく

紙の枠の中にペンを走らせた。

 

 

 

すらすらと名前を書き終えて、

これでいい?と

問いかけてくる優しい瞳に

僕はかすかに笑いながらうなずいて見せた。

 

 

 

僕は大きく深呼吸すると、

意を決して自分の名前を書いた。

 

 

 

想いを誓うのだから、

出来るだけ丁寧に書きたい。

 

 

 

どうかこの先も

ずっとずっと一緒にいられますように。

 

 

 

来年の春、一緒に桜が見られなくても、

いつかまた、と胸の中で繰り返す。

 

 

 

紙の上に僕達二人の名前が並んだ。

 

 

 

証人もいない。

印鑑も押されていない。

何の意味もなさない。

 

 

 

ままごとみたいな1枚の紙切れを

僕はじっと見つめた。

 

 

 

「ヒョン、ありがとうございます」

 

 

 

もう少しこの紙を持っていたいと

僕はヒョンに話した。

 

 

 

ヒョンはまじまじと紙を見つめ、

次いで僕の顔を見つめた。

その瞳は射抜くように鋭かった。

 

 

 

「この紙にはどんな意味があるの?」

 

 

 

「ずっと一緒にいると誓う書類です。

日本では法的な意味を持つものだそうです。

でも、外国人である僕達には、

何の意味もなしませんが」

 

 

 

ヒョンの瞳が大きく見開かれた。

 

 

 

鼓動はますます速まり、

胸が痛いほどだった。

この紙の持つ意味を明かすのは

とても勇気がいることだった。

 

 

 

「僕とずっと一緒にいてください。

今、ここで約束してください。ヒョン」

 

 

 

名前を呼ぶとヒョンは

僕を見つめて微笑んだ。

 

 

 

「何を当たり前のことを」

 

 

 

「でも僕は約束が欲しかったんです」

 

 

 

ヒョンの指が紙を拾い上げた。

 

 

 

「おまえの口からまさかそんな言葉が

聞けるとは思っていなかった。

そしてこんな嬉しいサプライズもね」

 

 

 

嬉しいサプライズと言われて、

僕は思わず顔を赤らめた。

ままごとみたいなことだけど嬉しい。

これでヒョンと約束することが出来た。

 

 

 

「ありがとう、ヒョン。

だけど、この紙はもう破ろうと思います」

 

 

 

誰かの目につくといけない。

 

 

 

僕が紙を破ろうとすると、

今度はヒョンの手が僕の手を掴んだ。

 

 

 

「ヒョン?」

 

 

 

どうしたんですか?と

僕は首を傾げる。

 

 

 

「もしおまえさえ良ければ、」

 

 

 

言いかけて言葉を切り、

ヒョンは優しく僕を見つめた。

 

 

 

「日本を離れる日まで、

この紙は破らないでおかないか」

 

 

 

「でも、これがもし、

誰かの目につくようなことがあったら」

 

 

 

「そんなことには絶対ならない」

 

 

 

「…本当に?」

 

 

 

ヒョンは笑いながらうなずく。

 

 

 

「オレがならないと言うんだから、

絶対にならない。

いい加減オレの言う事を信じろよ」

 

 

 

「信じろ」と強く言われて、

僕の中を何かが通り抜けた気がした。

 

 

 

いつもこの人には、

簡単に感情を振り回されて、

一喜一憂させられて。

 

 

 

それなのに、

ヒョンはこっちが恥ずかしく

なるような言葉を平気で吐くのだ。

いつもほとんど無自覚に。

 

 

 

「これがいつか、

ただの紙切れじゃなくなる日が来るよ」

 

 

 

「来るでしょうか」

 

 

 

「信じてくれないの?」

 

 

 

片手を掲げて

そっと僕の頬を包み込む。

汗が引いた僕の皮膚を

ヒョンの長い指先がゆっくりなぞった。

 

 

 

「ねえ、誓いのキスをしよう」

 

 

 

「ここで、ですか」

 

 

 

視線をさまよわせる僕に

ヒョンが「うん」とうなずいた。

頻繁に人通りがある場所ではない。

 

 

 

「紙に書いて誓ったんだから、

キスもしなきゃいけないんじゃない?」

 

 

 

ほら、と促されて、

顔を手のひらで包み込まれた。

僕は思わず息を吸い込んだ。

 

 

 

「おまえは誓うんだろう?オレと」

 

 

 

「あなたはいいんですか?それで」

 

 

 

「いいんだよ、それで」

 

 

 

ヒョンが掠れて震えそうな声で

そんな事を言うものだから、

僕の胸は締めつけられた。

 

 

 

ただのままごとなのに

喉の奥が苦しくて息が乱れた。

 

 

 

短く息を吐き出した僕に、

ヒョンは「バカだな」とつぶやいてから

僕の唇に触れるだけのキスをした。

 

 

 

唇を離して、

こつんと額をくっつけられる。

くっつけたまま、

ささやくような声でヒョンが言う。

 

 

 

「桜は来年も咲く。

再来年も。そして次の年も。

そしておまえはまたオレと一緒に、

ここに桜を見に来るんだ」

 

 

 

「約束だ」と言われた途端、

思わず破顔した僕の唇を素早く奪って

ヒョンは身体を離した。

 

 

 

来年も変わらずに、

この桜は美しく咲くだろう。

そして僕達は

いつか必ずまたここに来るだろう。

 

 

 

柔らかい笑みを浮かべながら

桜を見つめるヒョンの横顔を見やって、

僕は額にかかった髪を指先でかき上げた。
































…終





































いつも来てくださっている方、
ふらっと立ち寄ってくださった方、
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。

今週がみなさんにとって
素敵な一週間になりますように。

画像はお借りしました。
ありがとうございます。