「オタバリの少年探偵たち」セシル・デイ=ルイス | ひいくんの読書日記

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ひいくんが、毎日の通勤電車の中で読んでいる本を紹介します。
通勤時間は30分ほどなので、軽い読物がほとんどです。

第二次大戦直後のイギリスオタバリ市で、戦争ごっこにあけくれる少年たちの物語です。
ある日、みんなでかせいだお金が消え、テッドに疑いがかかります。
テッド無実を信じる数人のなかまは、真犯人を見つけてお金をとりもどそうと探偵活動をします。
ところが、いつのまにか悪党一味大犯罪をあきらかにすることになります。
ニコラス・ブレイク名義で多数のミステリを書いた作者のジュヴナイル・ミステリです。

物語は、13歳のジョージが体験したある事件の顛末を書くことになり、そのタイトルを『オタバリの少年探偵たち』とするシーンから始まります。

ジョージたちは、昼休みにオタバリの街の中心部にある“ガレキ場”と呼ばれている空襲跡の空き地で、テッド隊とトピー隊に分かれて戦争ごっこをしていました。
昼休みが終わり、学校に戻って来た時にテッド隊のニック・イェーツの蹴ったサッカーボールが校長室のそばの教室の大きな窓を割ってしまいます。
1週間のうちに窓ガラス代4ポンド14シリング6ペンスを弁償しなくてはいけなくなったニックを救うため、次の日、テッド隊とトピー隊は休戦し、みんなでお金を集めることにします。
トピー隊の皮肉屋のプルーン以外は賛成し、6月14日の土曜日に全員で街でお金を稼ぐことになります。
少年たちがさまざまな方法で一生懸命にお金を稼ぐ姿が描かれ、彼らの思いついた多様なアイディアには驚かされました。
こうして5ポンド8シリング6ペンスが集まり、結局参加することになったプルーンの持ってきた鍵のかかる木の箱に集まったお金を入れ、テッドの家に保管することになります。

ところが翌日曜日、その箱の中のお金がなくなり、テッド犯人だと疑われます。
テッドの無実を信じるニックは、ジョージ無実を証明しようと話します。
この日の午後、この問題を話し合う集会が開かれ、トピーはこの集会を法廷に仕立て、自らが裁判官役を、ピーター・バッツ検事役を務めます。
弁護人役を買って出たジョージは、“イギリスの法律では、何びとも有罪と証明されるまでは無罪であり、罪を証明する義務は検察側にある”と述べます。
誰かにがあると主張するときは、主張する方にその証明義務があり、があると言われた方に無実を証明する義務はないということを、作者は読者である子どもたちに伝えたかったのだと思います。
このいわゆる推定無罪の原則をわざわざジュヴナイル・ミステリに登場させた作者の趣向は秀逸です。
無実の証明を求める傾向の強い最近のネット・メディアへの警鐘にもなっているので、今の子どもたちにもぜひ読んでほしい一文です。


こうして少年たちは、この盗難事件の真相を明らかになるために探偵活に乗り出すことになります。
ところが、その結果、思わぬ犯罪を見つけることになります。

中盤以降、少年たちの探偵活動が物語の中心となり、ミステリ色が濃厚となります。
ミステリとしては、犯人とその動機、そして犯行方法というフーダニット〔whodunit〕ホワイダニット〔Whydunit〕ハウダニット〔Howdunit〕の3つの謎ミステリです。
少年たち謎解きには破綻もなく、謎解きミステリとしての完成度も高いです。

終盤、この探偵活動大人たち犯罪を明らかにすることになると、一気にスピードアップし、冒険活劇色が濃厚になります。
次々と襲いかかる危機的状況を、友情と知恵と勇気で乗り越える少年たちを描く冒険小説の傑作です。
登場する少年たちの一人一人に見せ場があるのも素敵です。


ジュヴナイル・ミステリですが、大人でも十分楽しめます。
久しぶりに正統派の少年小説の面白さを堪能することができました。

 


表紙のイラストと挿絵は、イギリス画家絵本作家エドワード・アーディゾーニです。
冒頭での戦争ごっこの場面が描かれています。

 [2023年1月28日読了]

この本は、riko(リコ)さんのブログ『本の森 リコの本棚』の2023年1月23日の記事で知りました。

 

 

この作品に出会う機会を与えてくれたriko(リコ)さんに感謝しています。
ありがとうございました。