「本を守ろうとする猫の話」夏川草介 | ひいくんの読書日記

ひいくんの読書日記

ひいくんが、毎日の通勤電車の中で読んでいる本を紹介します。
通勤時間は30分ほどなので、軽い読物がほとんどです。

夏木林太郎は、一介の高校生です。
幼い頃に両親が離婚し、さらにはが若くして他界したため、小学校に上がる頃には祖父の家に引き取られます。
以後はずっと祖父との二人暮らしでした。
祖父は町の片隅で夏木書店という小さな古書店を営んでいました。
その祖父が突然亡くなり、面識のなかった叔母に引き取られることになって、の整理をしていた林太郎は、書棚の奥で人間の言葉を話すトラネコと出会います。
トラネコは、本を守るために林太郎の力を借りたいのだと言います。

〔目次〕
序 章 事の始まり
第一章 第一の迷宮「閉じ込める者」
第二章 第二の迷宮「切りきざむ者」
第三章 第三の迷宮「売りさばく者」
第四章 最後の迷宮
終 章 事の終わり

解説にかえて  ――猫が教えてくれたこと――


序章 事の始まり」は、主人公で高校生夏木林太郎が一緒に暮らしていた祖父が急死し、茫然としている場面から始まります。
林太郎は幼い頃に両親が離婚し、さらにが若くして他界したため、
小学校に上がる頃には祖父の家に引き取られ、その後はずっと祖父と二人暮らしでした。
ところがある冬の朝、早起きの祖父の姿が見えず、林太郎祖父の部屋を見に行くと、既に祖父は亡くなっていました。
祖父は、町の片隅で夏木書店という小さな古書店を営んでいました。
祖父が亡くなり不登校になった林太郎を心配して、高校の一年先輩友だち秋葉良太が様子を見に来ます。
林太郎は葬儀まで会ったこともなかった叔母の家に引き取られることになります。

物語は「第一章 第一の迷宮「閉じ込める者」」に移り、数日のうちに夏木書店を離れなければならない林太郎が書棚を眺めながら途方に暮れていると、突然“ひどく陰気な店だな”と声がします。
驚いた林太郎が声のした方向を見ると、一匹のトラネコがいました。
トラネコヒトの言葉を話し、“わしはトラネコトラ”と名乗り、林太郎のことを“夏木書店の二代目”と呼び、林太郎に“お前の力を借りたい”と言ってきます。
ある場所にたくさんのが閉じ込められている”ので、その本を助け出すために力を貸せというのでした。
トラの雰囲気に祖父と似たものを感じた林太郎は戸惑いながらも力を貸すことにします。
案内された先はこの世のものとは思えない大邸宅で、真っ白いスーツを着た長身のがその邸宅のでした。
そして、そのは整然と配列された白いショーケースに整然と平置きされたを前に、一度読み終えたは二度と読まず、1万冊のを読む人間よりも2万冊のを読む人間のほうが価値が高いと断言します。
林太郎への愛情が印象に残ります。

第二章 第二の迷宮「切りきざむ者」」では、再びトラが現れ、力を貸せと言います。
世界中の本を集めてつぎつぎと切り刻んでいるがいるので、“このまま放置しておくわけにはいかん”とトラは言います。
ちょうどその時、林太郎のクラスの学級委員長柚木沙夜がやってきます。
沙夜林太郎とは正反対の活発な女の子で、不登校の林太郎のために連絡帳を届けてくれていました。
ふしぎなことに沙夜にもトラの姿が見え、話す言葉が分かり、沙夜林太郎トラが向かう先について行くと言います。
2人と1匹が着いたのは、多数の白衣の男女が忙しげに行き交う広々とした読書研究所と呼ばれる
研究施設でした。
果てしない下り階段を下りて行った先に所長室があり、そこに丸々と太った恰幅のいい人物がいて、鋏で次々とを切り刻んでいました。
このは読書の効率化こそが大事であり、読書量を増やすためには要約と速読が重要だ、難解なは難解というだけでもはや書物としての価値を失うと言い切ります。
林太郎の亡き祖父への愛情が深く感じられました。

第三章 第三の迷宮「売りさばく者」」では、沙夜が学校帰りに夏木書店に立ち寄ると、またまたトラが現れ、“もう一度だけ、力を貸してもらいたい”と言います。
トラは、林太郎には“第三の迷宮の主人は、いささか厄介だ”と、沙夜には“何かあったときは二代目をよろしく頼む”と話します。
2人と1匹が着いたのは、巨大な高層ビルにある世界一番堂書店で、
その社長室に、真っ白な頭髪の痩せた初老の紳士が待っていました。
そして、そのビルの窓からは無数のたちが投げ出されていました。
このは“売れることがすべて”で“どんな傑作でも、売れなければ消える”と話します。
最近、純文学をほとんど読まず、刺激的なエンターテインメント小説しか読んでいない私の心に刺さる展開でした。

第四章 最後の迷宮」は、いよいよ林太郎夏木書店から引っ越すクリスマスイブの朝、もう現れないはずだったトラ林太郎の前に現れる場面から始まります。
一体何が起きたのでしょうか。
そして、「終章 事の終わり」で明らかになる林太郎の決意が深い余韻を残します。

この作品はファンタジー小説ですが、祖父の死を乗り越えて林太郎が成長していく姿を描く青春小説でもあります。
また、ボーイ・ミーツ・ガールガール・ミーツ・ボーイなのかもしれませんが…)の恋愛物語でもあります。
そして、何より作者のへの愛情があふれた一冊でした。

作中での林太郎の次の言葉が印象に残りました。
読んで難しいと感じたなら、それは…(中略)…新しいことが書いてあるから難しんだ。難しい本に出合ったらそれはチャンスだよ
読みやすいってことは、知っていることが書いてあるから読みやすいんだ。難しいってことは…(中略)…新しいことが書いてあるって証拠だよ
久しぶりに難しいに挑戦してみたくなりました。

 


表紙のイラストは、イラストレーター宮崎ひかりさんです。
書棚の前で向かい合う林太郎トラが描かれています。
宮崎ひかりさんさんのツィッターはこちらです。→https://twitter.com/one_zeroberry

[2022年9月13日読了]