「おばちゃまはイスタンブール」ドロシー・ギルマン | ひいくんの読書日記

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ひいくんが、毎日の通勤電車の中で読んでいる本を紹介します。
通勤時間は30分ほどなので、軽い読物がほとんどです。

ミセス・ポリファックスはちょっとした行きちがいからCIAに採用されてしまったボランティア・スパイです。
一度かぎりと思った初仕事で大手柄をたてたために、またも任務がまわってきます。
行き先はイスタンブール、東側から脱出してきたダブル・スパイの救出が今回の使命です。
なんとか合流はできたものの、女二人てんやわんやの逃走劇が始まります。
どこかおかしくたっぷり愉快なポリファックス・シリーズ第2弾です。

物語は、ある日曜日の午後2時、ミセス・ポリファックスのところに、CIAカーステアーズから電話がかかってくるシーンから始まります。
カーステアーズは30分後に出発し、1週間ほどイスタンブールに行ってほしいと話します。
イスタンブールイギリス大使館に投降したものの、その後、姿を消したソ連スパイマグダ・フェレンツィ=サボという女性にお金と別名で作られたパスポートを届けてほしいというものでした。
マグダとは、ホテルのロビーで待ち合わせることになっているので、そのときに荷物を渡すという、観光客にしか見えないミセス・ポリファックスにはぴったりの簡単な任務でした。
そして、CIAの行動が敵方に漏れている恐れがあるということで、ヘンリー・マイルズという男を護衛に付けます。

こうして危険のない簡単な任務に赴いたミセス・ポリファックスでしたが、次々とアクシデントが起こり、大トラブルへと発展していきます。
(これ以上紹介すると面白さが半減してしまうので、ここまでにしておきます。)

この作品も、ミセス・ポリファックスが派遣先で、思わぬ危機に陥り、CIA本部が用意した安全策は役に立たず、自らの判断で選んだ新しい仲間たちの協力で危機脱出し、CIA本部が想定もしていなかった手柄を上げるというシリーズ全作品に共通するパターンどおりの展開となります。
ミセス・ポリファックスが次々と危機に見舞われるものの、偶然の力も手伝って乗り切っていくというストーリー展開はご都合主義的にも見えますが、ハリウッド冒険映画では定番の連続活劇型の展開です。
まるで、映画インディ・ジョーンズシリーズ”のようなハラハラドキドキが味わえる冒険小説の秀作です。


ミセス・ポリファックス・シリーズは、1988年から2000年にかけて全14作が集英社文庫から刊行され、私は大ファンでした。
最近、本棚を整理していて、この第2作だけ、当時、早々に一旦絶版になってしまい、入手できなかったこと、他の作品はすべて読んだのに、この作品だけは読まずじまいだったことを思い出しました。
当時と異なり、今は古本もネットで簡単に手に入れることができるので、30年近い時を経て、ようやく読むことができました。


そして、年を重ねた今、読んだからこそ、物語の終盤でミセス・ポリファックスが登場人物の一人と交わす会話が印象に残りました。
「人の人生って、一定のパターンがあるのね。カルマと呼んでもいいような。わたしは二つに一つ選ばなければならないときには、いつでもこの仕事を取らなければならなかった。まるで強い大きな手ががっちりとわらしをつかんでいるみたいに。結婚して、いい奥さん、いいおかあさんになるのはわたしのカルマではなかったのね」
「いまがそうかもしれないじゃないの。わたしも少し勉強しているの。もしそれがあなたのカルマなら、つぎの段階に努力して進むことができるのでしょう?宿命的なあなたのカルマをつとめあげたら、次のレベルに進むことができる。新しい始まり、別のカルマに入るのじゃない?」
「よくわかっているようじゃない?」
「わたしは自分のことを言ってるのよ。だって、何十年も家庭の主婦をしてきたわたしが、この年になって突然、こんな暴力的な世界に足を踏み入れるなんて、考えることもできなかったわ。わたしはこの危険な仕事で第二の人生を始めたわけ。間違い? 偶然? そうじゃないわ。わたしはあなたがいままでいた世界に入り、あなたはそこから出て新しい人生をやり直そうとしているのじゃないかしら」
「そうだといいのだけれど」
「そう思えばいいのよ」

ミセス・ポリファックスのように前向きに今後の人生を過ごしたいものです。

 


表紙のイラストは、イラストレーター西村玲子さんです。
観光客にしか見えないミセス・ポリファックスが描かれています。
西村玲子さんは2021年1月に78歳で亡くなられました。

 [2022年4月8日読了]