「王女に捧ぐ身辺調査 ロンドン謎解き結婚相談所」アリスン・モントクレア | ひいくんの読書日記

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ひいくんが、毎日の通勤電車の中で読んでいる本を紹介します。
通勤時間は30分ほどなので、軽い読物がほとんどです。

わたしたちが王子の身辺調査をするの!? 
戦後ロンドンで結婚相談所を営むアイリスグウェンに、英国王妃に仕えるグウェンいとこから驚愕の依頼があります。
エリザベス王女が想いを寄せるフィリップ王子について、その母親のスキャンダルをほのめかす脅迫状が届いたというのです。
英国王室の危機を救うため、ふたりは極秘で調査をはじめることになります。
息のあった女性コンビの活躍を描く第2弾です。

物語は、1946年7月上旬、前作『ロンドン謎解き結婚相談所』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12661181022.html)のおよそ1か月後、ロンドンメイフェアにある奇跡的に戦火を免れた5階建ての建物の最上階の一室にあるライト・ソート結婚相談所で、共同経営者の1人、アイリス・スパークスを怖気づかせるほど声の大きい元高射砲部隊員ミス・ハーディマンの相手をしているシーンで始まります。

アイリスは、小柄で髪はブルネット(褐色)で、ケンブリッジ大卒の頭脳明晰な女性です。
戦時中は情報部の仕事をしており、数カ国語に堪能なうえ下町言葉などにも詳しく、さらに格闘術などにも優れ、豊富な人脈も持っていました。
もう1人の共同経営者グェンことグェンドリン・ペインブリッジは、金髪で長身で、絵に描いたような上流階級出身の女性です。
貴族ペインブリッジ家ロニーとなりますが、が戦死し、その悲しみから精神を病み、療養所に入所することになり、その間に一人息子である6歳のリトル・ロニーの親権を義父母に取り上げられてしまい、義父母の家で居心地の悪い生活を送っていました。
人の内面を見抜く鋭い目を持ち、話している相手にきっちり向き合い、心を動かしていく力の持ち主で、非常に高い推理力も持っていました。

ライト・ソート結婚相談所は、登録した会員の中から、会員の希望に沿って、女性には男性を、男性には女性を紹介し、結婚に至ると、成約金をもらうというものでした。
当然、登録した会員身元調査は行っていましたが、2人が前作で殺人事件を解決したこともあり、世間にはその件で有名になってしまっていました。

ある日、その評判を聞いたグェン従姉妹ペイシェンス・マシスンが訪ねてきます。
エリザベス王女に仕えるペイシェンスは、王女の結婚相手の候補であるフィリップ王子母親をめぐるスキャンダルを匂わせる脅迫状が届いたので、その内容の確認するため、フィリップ王子の過去について調べてほしいと2人に依頼します。
フィリップ王子父親は、現在、イギリスに亡命中のギリシア国王ゲオルギオス二世父親前国王コンスタンディノス1世アンドレアス王子で、母親ヴィクトリア女王ひ孫アリス王女でした。
スキャンダルが事実であればもちろんのこと、真偽は不明でもスキャンダルが表沙汰になれば、エリザベス王女フィリップ王子の縁談はつぶれてしまいかねません。
2人は極秘に調査することを引き受けます。

アイリスグェンはそれぞれの人脈を駆使して調査を開始しますが、脅迫状が示唆している内容が20年以上前の出来事ということもあり、なかなか調査は進展しません。
そうこうしているうちに、ペイシェンスの元に2通目の脅迫状が届きます。

果たして、アイリスグェンは真相にたどり着くことができるのでしょうか。

脅迫者が誰なのかというフーダニット〔whodunit〕脅迫の目的が何なのかというホワイダニット〔Whydunit〕2つ謎に挑むミステリです。
また、イギリス王室と亡命中のギリシア王室に関わる脅迫事件なので、両国の王室関係者情報機関などさまざまな思惑で動く勢力がかかわることになり、誰が見方で誰がなのか、情報や証言のどこまでが真実なのかがわからないまま、アイリスグェン調査を続けることになります。
このスパイ小説を思わせるスリリングな展開が読者をひきつけ、サスペンススリラーとしても読み応えがありました。

アイリスの友人で、劇作家志望の大男サリーことサルヴァトーレ・ダニエリは、前作以上に大活躍します。
また、前作で知り合った闇屋のボスアーチー・スペリングアイリスに協力します。
義母レディ・カロラインとの関係に神経をすり減らしているグェンの家庭生活が心配でしたが、ペインブリッジ家では、執事パーシヴァルリトル・ロニー家庭教師アグネスだけでなく、小間使いミリーグェンの味方のようで、少し安心しました。

事件以外のエピソードでは、セシルと名付けられた机のエピソードが印象に残りました。
今の手狭な事務所の部屋から、空き部屋となっている隣の広い部屋に移ることを希望しているアイリスグェンが、その隣の部屋でハロッズの両袖机を見つけ、グェンはその机にセシルと名を付けます。
そして、仕事で成功し、その報酬で隣の部屋に移り、セシルと再会することが2人の目標となり、2人は折にふれてセシルのことを話題にします。
2人のこのユーモラスな会話もこのシリーズの楽しみの一つだと思います。

それぞれの心に抱えている戦争の傷跡に向き合い、乗り越えようとしているアイリスグェンですが、この作品でまた一歩、友情を深め、互いに成長したように感じられました。

 


表紙のイラストは、イラストレイター亀井英里さんです。
カフェの前を歩くアイリスグェンが描かれています。
今回は前作の表紙とは逆に、アイリスの顔は見えず、グェンは横顔が見えています。
亀井英里さんのツィッターはこちらです。→https://twitter.com/_erikamei_

 [2021年11月15日読了]