副題は“ご隠居さん(三)”。
落語で培った教養と、さわやかな語り口、情には厚いけれど人に流されない、そんな江戸の街では知る人ぞ知る鏡磨ぎ師の梟助じいさんが主人公のシリーズ第三弾です。
梟助がさまざまな絆を紡ぐ5編が収録されています。
「犬の証言」
「ススキの木兎」
「幸せの順番」
「コドモルス」
「百物語」
第1作〔『ご隠居さん』(http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20160213.html)〕、第2作〔『心の鏡』(http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20160214.html)〕と同様に、梟助と贔屓の客との会話から物語がスタートする形式なので、その内容は、池の尻村と奥沢村の九品仏が舞台の生まれ変わりの話だったり(「犬の証言」)、小松屋の息子の小辰ちゃんからもらった鬼子母神のススキの細工物をきっかけとした梟とミミズクが絡んだ話だったり(「ススキの木兎」)、神田多町の源五郎店に住んでいた娘がどのようにして幸せになったのかという話(「幸せの順番」)だったり、奥州花巻出身の母親アサの過去にまつわる魔除けの話だったり(「コドモルス」)とバラエティに富んでいます。
このうち、「幸せの順番」と「コドモルス」は、前者は幸せが突然暗転する切ない話であり、後者は奉公人と主人の心温まる交流を描いた話であるというように対象的な2話ですが、このシリーズの他の作品のように、落語や書物にからんだ話ではなく、梟助が実際に体験した話として語られています。
私のお気に入りは、「百物語」です。
越後屋の富右衛門に誘われたとはいえ、梟助が贔屓の客の家ではなく、百物語の会に出席して話をします。
その席で、梟助は鏡にかかわる怖い話を求められ、3日後の死を予告する鏡の話をします。
その後、さらにもう一つ話を求められ、梟助の育ての親から聞いた自分が赤子の時の話をしますが、このことが梟助助の出自を明らかにすることになります。
読み進むうちに自然に思わぬ展開に持ち込む作者のストーリーテラーぶりに脱帽です。
3話目以降でこれまでと趣向を変えた作者は、シリーズの今後をどのように考えているのでしょうか。
続編が楽しみになりました。作者には、続編をぜひお願いしたいです。
犬の証言 ご隠居さん(三) (文春文庫)/文藝春秋
¥670
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表紙のイラストは、イラストレーターの蓬田やすひろさんです。
「犬の証言」での一場面が描かれ、今回の表紙には梟助は登場しません。
蓬田さんは、藤沢周平さんの文庫本の表紙を多数描かれています。
[2016年2月5日読了]