「消えた修道士」ピーター・トレメイン | ひいくんの読書日記

ひいくんの読書日記

ひいくんが、毎日の通勤電車の中で読んでいる本を紹介します。
通勤時間は30分ほどなので、軽い読物がほとんどです。

7世紀アイルランドを舞台にしたケルト・ミステリ修道女フィデルマシリーズ”の長編第7作です。
このシリーズの長編の邦訳は、第5作〔『蜘蛛の巣』(http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20091022.html)〕からスタートし、第3作〔『幼き子らよ、我がもとへ』(http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20091027.html)〕、第4作〔『蛇、もっとも禍し』(http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20091130.html)〕、第1作〔『死をもちて赦されん』(http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20110205.html)〕、第2作〔『サクソンの司教冠』(http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20120319.html)〕と原作の刊行順とは違うの順で訳出されてきましたが、前作の第6作〔『翳深き谷』(http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20150225.html)〕から原作の刊行順と一致するようになりました。

物語は、イムラックの大修道院で大切に保管していた聖遺物が紛失するという衝撃的な場面でスタートします。
そして、場面はモアン王国の首都キャシェルに移ります。
キャシェルでは、長年険悪な関係だったオー・フィジェンティ大族長ドネナッハが、和平条約を締結するためにモアン王国を訪れようとしていました。
オー・フィジェンティの一行を途中まで出迎えに出たフィデルマの兄でモアン王コルグーが、一行と共にキャシェルに戻る途中、大族長モアン国王を何者かの矢が襲います。
どちらも命に別状こそなかったものの、重傷を負い、襲撃者はその場で大族長を警護していたオー・フィジェンティ親衛隊隊長ガンガに殺されます。
殺された襲撃者がモアン王国精鋭戦士団の印を身につけていたため、オー・フィジェンティ側は襲撃がモアン王国側の陰謀だと主張し、和平から一転、両国は一色触発の危機に陥ってしまいます。

王国の危機にコルグーは自らの潔白の証明を、妹であり、ドーリィー(法廷弁護士)の資格をもつフィデルマに託します。
調停のための法廷が開かれるのは9日後にもかかわらず、襲撃者は既に殺され、証拠はほとんど残っていません。
フィデルマは、サクソン人修道士エイダルフと共に、襲撃に使われた矢の出所と思われるクノック・アーンニャに向かいます。

同じ頃、イムラック大修道院院長セグディーは、困り果てていました。
修道院で大切に保管していた聖アルバ聖遺物が消失し、保管を担当していた修道士ブラザー・モホタが失踪してしまったのです。
そんな折、襲撃事件の調査のためにフィデルマたちが修道院にやってきます。
まさに救いの神とばかりに院長は事件の調査を依頼します。
聖遺物モアン王国の大切な宝であり、必ず見つけなくてはなりません。
族長国王の襲撃者のひとりが元修道士であったこともあり、二つの事件の結びつきを感じたフィデルマ院長の依頼を引き受けます。

モアン王国の平和と威信がかかった難事件を、フィデルマは見事解決することができるのでしょうか。

この作品で、フィデルマは久々に自分の国で事件解決にあたります。
兄である国王コルグーにかけられた疑惑を晴らさねばならないのに、調査を始め、明らかになる事実は不利なものばかりで、八方ふさがりに陥ってしまいます。
また、狼の群れに襲われたり、滞在中の修道院も襲われるなど、フィデルマ自身の命の危険にも直面します。
このようなシーンはこれまでの作品ではほとんどなく、物語はスリリングに展開していきます。

さらに村が襲撃され、人々が焼き討ちにあうのをただただ見ているしかなかったフィデルマの心理的なダメージも深くなっていきます。
そんな中、フィデルマエイダルフとともに地道に捜査を続けますが、少しずつ明らかになっていく小さな事実と、複数の身内ともいえる人々の不可解な行動などもあり、誰が信用できる人物で、誰が裏切り者なのかという疑心暗鬼に中での捜査を強いられることになります。
このサスペンスにあふれた展開は、これまでのシリーズ中随一のものだと思います。

終盤の法廷シーンに至るまで、作者のミスリードは完璧で、私にはその真相が見えませんでした。
その点でも本格ミステリの醍醐味を満喫できる作品だと思います。
ネタばれになるといけないので詳しくは説明できませんが、このミスリードフィデルマの存在自体がかかわっている点が非常にユニークな設定だと思います。

一方、法廷シーンでは、フィデルマオー・フィジェンティドーリィー(法廷弁護士)ソラムを圧倒してしまい、フィデルマの独り舞台です。
法廷シーンというより、名探偵が関係者を集めて行う謎解きシーンが法廷を舞台に行われているようで、法廷ミステリ色はほとんど感じられません。


シリーズ物は、登場人物の人物像がだんだん深まっていく過程も楽しめるものですが、この作品ではエイダルフの名前の意味が明らかになります。
もちろん、エイダルフのこれまでで一番ともいってよい活躍の見せ場もあります。

物語の本筋とは別に、衝撃的なのはエピローグで語られるエピソードです。
このシリーズの今後の展開には目が離せません。

消えた修道士〈上〉 (創元推理文庫)/東京創元社

¥1,145
Amazon.co.jp

消えた修道士〈下〉 (創元推理文庫)/東京創元社

¥1,145
Amazon.co.jp


表紙のイラストは、このシリーズの表紙を全て描いているイラストレイター八木美穂子さんです。
上巻は岩山の上に建つキャシェルの城に向かう途中、モアン王コルグーオー・フィジェンティ大族長ドネナッハが襲われる場面、下巻モアン王国の民の繁栄の象徴のイチイの大木が襲撃される場面を描いているのでしょうか。
八木美穂子さんのウェブサイトはこちらです。→http://www.tis-home.com/mihoko-yagi/

[2015年12月26日読了]


***********

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
またまた8か月近くもブログの更新を滞らせてしまいました。
この間、このブログを訪れていただいた皆さん、本当にありがとうございました。

ブログを中断している間も読書は続けていましたので、このブログで紹介していない読んだ本がものすごい数になってしまいました。
読み終えた順に紹介しているといつになっても終わらないような気がしますので、今回から仕切り直してスタートすることにしました。
紹介できていない2014年3月8日から2015年12月19日までに読んだ本については、おいおい順不同で紹介させていただきます。

再スタートの作品は、およそ2年ぶりの新作の刊行となった“修道女フィデルマシリーズ”です。
今後ともよろしくお願いいたします。


***********