「死をもちて赦されん」ピーター・トレメイン | ひいくんの読書日記

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ひいくんが、毎日の通勤電車の中で読んでいる本を紹介します。
通勤時間は30分ほどなので、軽い読物がほとんどです。

7世紀のアイルランドを舞台にしたケルト・ミステリ修道女フィデルマシリーズ”の長編・邦訳第4作です。

ウィトビアでの歴史的な教会会議を前に、アイオナ派の有力な修道院長が殺害されます。
アイオナ派の若き美貌の修道女“キルデアのフィデルマ”は、対立するローマ派から選ばれた修道士“サックスムンド・ハムのエイダルフ”とともに、事件を調べることになります。
フィデルマの名を世に知らしめることになる大事件と、後に良き相棒となるエイダルフとの出会いを描いた待望の長編第1作の邦訳です。


巻末の「訳者あとがき」で翻訳の甲斐萬里江さんが書いているように、この第1作の舞台は、アイルランドではなく、大ブリテン島ノーサンブリア王国で行われたカトリック教会会議の場です。
古代アイルランドが舞台のミステリにもかかわらず、アイルランドの風物や文化が描かれておらず、会議の議題の神学論争も日本ではなじみが薄いということで、アイルランドが舞台のシリーズ第5作から翻訳をスタートし、第3作、第4作と刊行され、今回ようやく第1作の刊行となったようです。


新作の邦訳を心待ちにしているシリーズの一つなので、刊行日に早速、購入し、積ん読状態の未読の本を脇にどけて、真っ先にこの本を読み始めました。
そして、期待どおりの心地よさを味わうことができました。


物語は、664年にストロンシャル(ウィトビア)修道院で開催されたウィトビア教会会議で発生した殺人事件を扱っています。
ウィトビア教会会議は、ノーサンブリア王国ローマ派(ローマ・カトリック教会)アイオナ派(アイルランド・カトリック教会)のいずれに帰依すべきかを決めるもので、それぞれの派を代表する弁論者たちを召集して議論し、ノーサンブリア王のオズウィーが決定することになっていました。

フィデルマはこの会議で何か法的な助言や説明が必要になった時に備えて、キルデア修道院エイターン院長から出席を求められ、ストロンシャル(ウィトビア)修道院を訪れます。

エイターン院長はこの会議でアイオナ派を代表して、最初に弁論する予定でした。
会議が始まろうとしている時、エイターン院長の死亡の知らせがもたらされます。
ローマ派アイオナ派のどちらがエイターン院長殺したのか、またその意図は何なのか、この事件による両派の対立の激化を懸念したオズウィーは、公明正大に事件を解決するために、アイオナ派フィデルマと、ローマ派サクソン人の修道士・エイダルフとに、共同での事件の調査を命じます。


これまで翻訳された長編では、フィデルマの高飛車なもの言いや態度が印象的でしたが、この物語ではそれがあまり感じられません。
それどころか、ノーサンブリア王国アイオナ派の司教でリンデスファーン修道院コルマーン修道院長の女性蔑視的発言にいちいち腹を立てたり、一緒に調査することになるエイダルフに対抗意識をむき出しにしたりなど、子どもっぽい側面も見せ、未熟ささえ感じさせます。
そのため、この作品ではフィデルマの態度に嫌みは感じませんでした。


古代アイルランドイングランド北東部サクソン人の風俗や習慣、ましてや当時のカトリック教義論争などに全く関心がない読者でもミステリとして十分楽しめる作品です。
フィデルマの謎解きにも破綻がなく、本格ミステリとしての醍醐味にあふれたミステリに仕上がっています。
また、長編第1作であるこの作品を読むと、このシリーズが最初から本格ミステリとして高い水準を保っていることがよくわかります。


エイダルフの役割は、この作品ではまだオーソドックスなワトソン役にとどまっていますが、この調査の過程でフィデルマエイダルフはぶつかりあいながらも、互いに信頼し、惹かれあうようになっていきます。

次には、ぜひローマを舞台にフィデルマエイダルフが活躍するという長編第2作を翻訳していただき、その後、シリーズの順序どおりに刊行されることを望みます。

既訳の長編3作品もこのブログで紹介していますので、興味のある方はご覧ください。。
 「蜘蛛の巣」(長編第5作、邦訳第1作):http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20091022.htm
 「幼き子らよ、我がもとへ」(長編第3作、邦訳第2作):http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20091027.html
 「蛇、もっとも禍し」(長編第4作、邦訳第3作):http://ameblo.jp/hiikun-book/day-20091130.html


死をもちて赦されん (創元推理文庫)/ピーター・トレメイン
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表紙のイラストは、このシリーズの表紙を全て描いているイラストレイターの八木美穂子さんです。
描かれている二人は、フィデルマエイダルフだと思います。
エイダルフだとすると、表紙初登場です。
八木美穂子さんのホームページはこちらです。→http://www.tis-home.com/mihoko-yagi/


なお、ウィトビアはカタカナ表記は、ウィットビーが一般的です。

ウィットビーは、イギリスイングランド北東部ノースヨークシャー州にある北海に面した美しい港町です。
修道院は、16世紀に閉鎖され、現在は外壁が残っているのみとのことです。
私が、イギリスで訪れてみたいと思っている場所の一つです。
ウィットビー修道院(Whitby Abbey)http://en.wikipedia.org/wiki/Whitby_Abbey (WIKIPEDIAから)



[2011年2月3日現在]