戦国時代、小泥棒が戦国武将・武田信玄の影武者として生きる運命を背負わされた悲喜劇。
時は戦国時代の中ごろの天正元年、勇猛と恐れられる武田信玄とその軍勢は上洛を睨み、東三河で野田城を攻め落とそうとしていた。しかしある夜、信玄は城内から狙撃され、思わぬ深手を負う。この一大事を重く見た武田軍は、攻城中にもかかわらず甲斐へ引き返すが、その道中で信玄の命は尽きる。重臣たちには、後々多くの人間の運命を左右することとなる信玄の遺言が託された。それは、自分の死を絶対の秘密とし、3年間は動かずに領地を固め、まだ幼い嫡孫(竹丸)の成長を待って力を貸して欲しい、というものだった。信玄の弟武田信廉や重臣らは、信玄の死を内部にも明かさず、影武者を立てて難をしのごうと考える。そこで、信廉が以前から目をかけ、手元に置いていた男、処刑寸前のところを信廉に助けられた盗人が立てられた。その素性にふさわしく、品性は信玄と比ぶべくもなかったが、面差しは不思議なほど瓜二つだった。
思わぬ大役に恐れを抱き、当初は逃亡をも企てた男だったが、信玄の死を知り、以前対面した折に圧倒されたその威容や言葉などを思い出すと、やがて影武者としての人生を受け入れ、信玄のために働こうと思うようになっていく。そして信玄として屋敷へ戻った影武者は、嫡孫竹丸や側室たちとの対面を無事に果たし、評定の場においても信玄らしく振舞って収めるなど、重臣たちが期待する以上の働きを見せていく。
しかし一方、武田の不審な動きから信玄の死を疑う織田信長や徳川家康は密偵を送り込み、自ら陽動によっても武田軍を揺さぶっていく。また、それに反応する形で諏訪勝頼が独断で出陣し、武田家中に不協和音を撒き散らしてしまう。勝頼は信玄の子であるが側室との間の子ゆえ嫡男とはみなされず、遺言においても自身の息子である竹丸の後見人とされ、芝居とはいえ盗人の出である影武者にかしずいて見せねばならぬことに憤慨していたのだった。
こうして徐々にきしみ始める武田家と影武者の運命。新しい時代の寵児となる織田信長と徳川家康、そして没落していく武田家、歴史の歯車の中に巻き込まれていく影武者。そして、運命の長篠の戦いを迎えることになる。