片陰、かたかげと云う。朝夕に出来る半分だけ陰になる状態を云う。

ハイジャン男の家より、数百メートル大橋駅寄りの商店の並ぶ通りに、朝夕に片陰が出来る。

夏になり、日差しが強いと、その片陰は濃く現れる。



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片陰の中を歩くと涼しい。通勤の道が嬉しくなる。片陰に励まされながら駅へ向かうことになる。

片陰は、勿論、夏の季語である。しかも、晩夏七月の季語とすることが多い。七月には日差しが強く、真っ黒に現れるからであろう。

片陰の句で思い出す句は、ハイジャン男の句でなく、父の句だ。

「車椅子そっと片陰譲りけり」

父が晩年の85才の頃の句である。車椅子が向こうからやって来た。両者ともに、狭い片陰の中での出会い。父がそっと片陰を譲ったという句である。

父は、たいへん優しい性格であった。父の父母をともに15才の時に、当時、不治の病と云われた結核で失くし、弟、妹2人の兄として一家を支えてきた。養祖母が亡くなり、いよいよ兄弟だけとなった時のこと。親戚の叔父たちが、妹たちを引き取る提案をした。しかし、父は、これを断固拒否して、兄弟が離れ離れになるのを防いだ。当時、父は大学生になっていた。昨年、96歳で亡くなった父の長妹が、この時の父のことをよく話してくれて、感謝していた。

「片陰の中に優しさ生まれ来る」

ハイジャン男

片陰は、いろんな優しさや勇気を生み出す夏の風物だ。人に譲り合いの気持ちを、人に一日元気で働くようにと。