「チェンジリング 碧の聖所」 妹尾ゆふ子 [ハルキ文庫]  | カウネット呼ぼう

「チェンジリング 碧の聖所」 妹尾ゆふ子 [ハルキ文庫] 

「チェンジリング 赤の誓約」 の続き。この2冊で話は完結します。
妖精をみる力を持っていたせいで、なかなか社会に溶けこめずに生き辛さを感じていた平凡なOLの美前。そんな彼女が実は異世界のお姫様で、異世界からの刺客に命を狙われ続けるが、自分を守ってくれる騎士(口ベタな少年。美形)と共に異世界に旅だったのが前作までのお話。今度はケルト神話をベースにした異世界を中心に話は進みます。
「平凡な少女が実は」は少女小説やマンガでの王道パターンではありますが、このお話が際立っているのは圧倒的な「いたたまれなさ」。前巻での日常生活で主人公が周りから浮いてる描写もリアルなだけに痛かったですが、「帰ってきた本来の世界」であるはずの《輝きの野》にも彼女が安らげる場所があるわけではなくて。《世継ぎの君》であっても皆から愛され、ちやほやされるわけではなく、むしろその力だけを目当てに色々な人たちに狙われ続ける日々。「自分のために誰か死ぬのは嫌だ」と思っても、それは逆に美前のために犠牲になる人の誇りを傷つけるだけのシロモノで。でもそれが、どこにも居場所がないだけではなく、逃げ場所すら存在しない美前が最後に選び取った答えはという展開に結びつくわけですが。
また、きちんと話が構成されていて、《輝きの野》の真実がわかり価値観がひっくり返るところや、それまでの伏線が見事に収束していくあたりがなかなかに快感です。
それにしても、妹尾ゆふ子さんは異世界の描写がとてもうまい方なんですが、今回の《輝きの野》の作り方が2冊で終わるのにはもったいな過ぎるほど見事なでき映えで。こっちの世界とは確実に違う空気、世界の理と風土、文化、そして精神構造、信念。それらがきちんと筋が通っているから、世界がカキワリじゃなくて、ちゃんとした確かさを持っているのです。さすが。