プロフェッサーT

『さぁさ!街行く皆様!お茶の間の皆様!レディース&ジェントルメン!』


テレビから街頭のデジタルサイネージに至るまで、東京シャードのあらゆるディスプレイからプロフェッサーTのけたたましい客引きの声が強引に放映される。


プロフェッサーTの電波ジャック…と言うにはあまりにも規模が大き過ぎるこの所業に、恐らく今頃テレビ局始めとするメディア各社は混乱していることだろう。


そして東京シャードの住人も。


画像がプロフェッサーTの胡散臭い姿から、宇宙の一画、キプロス宙域に切り替わる。

東京シャードからはかなり離れた宙域だ。



「なんだ?アクトレス?」

「あれ、吾妻楓じゃないか?」

「おい、文島明日翔もいるじゃないか!」

「もう一人は…二子玉舞?」

「何が始まろうとしてるんです?」


プロフェッサーT

『A-SATのデビューライブ!目ん玉かっぽじって、篤と御覧じろ!』



光里

「目ん玉かっぽじったら見えないじゃない」


私の隣でオペレーターを務める光里が呟くが、プロフェッサーTはノリノリで聞こえていないのか、意にも介さない。



明日翔達がいるのはキプロス宙域、最深部。

東京シャードに向けて移動しつつあるヴァイス群の迎撃も最終段階を迎えたところだ。


プロフェッサーTの口上が終わったところで、私は明日翔達に交戦開始の号令を出す。




先陣切って斬り込むのは楓。
文字通り山の様に巨大なタートル種に刀を振り下ろす。

刀型クロスギアは、楓のエミッションを増幅して斬撃を放出する。

並の大型ヴァイスならこの斬撃でひとたまりも無いだろうが、流石に強度の高い個体。


易々と倒れる事はなく暴れ回る。

これでは刀の間合いに捉えるのも難しい。


だが私は楓にひとつのトレーニングを課していた。


射撃訓練。


これまで刀1本で渡り歩いてきた楓には不服だっただろうが、1発の銃弾が解決する事柄と言うのは存外多いものだ。



「…くっ」

激しく転がるように動き回るタートルに剣閃は届かず、已む無くトリガーに指を掛ける。

プロフェッサーT
『決まったーー!吾妻ちゃんのチャージショットがタートルを撃ち抜いたーっ!』

…サッカーの実況並にうるさい。



次はオベリスクの特異型か。

ほぼ動く事はないのだが、その存在は要塞そのもの。
堅牢な装甲に無数の砲塔。

楓に代わり、明日翔がその弾雨の隙間を掻い潜り、外殻に衝撃を加えていく。


プロフェッサーT
『文島選手、流石ですね。解説の輪島隊長、如何ですか?今のプレイ』

輪島
『指揮中ですのでお静かに願えませんか?』

プロフェッサーT
『なんだよー輪島ちゃん、つまんねーな~。まーアレだ。トップスギアのスキル起動時の斥力場でオベ公のビームを弾きながら、仲間のシールド出力を回復して、反撃撃破ってこった。流石フェアリーハートってとこやね』

分かってるならコントに巻き込まないでほしい。



問題は次だ。
新たに発見された新型、割り振られたコードはロサガリカ。

まだその行動パターンは解析されていない。


防御の堅い舞にデータ収集も兼ねて、斬り込んでもらう。

まずはワスプからの偶数弾で牽制し、動きを制限したところに爆撃か。

舞は持ち前の加速性で爆発の予想範囲から逃れながら、ロサガリカを膾切りにする。

だが

光里
「ロサガリカより高エネルギー反応!」


恐らくこれがロサガリカの奥の手だろう。
舞はシールドを構える間すら無く、直撃を受ける。

明日翔
「舞さん!」

明日翔が割って入り舞を救出するが、それは代わりに明日翔が主砲を一身に受ける事になる。


だがその爆炎から姿を表したのは

プロフェッサーT
『出たーー!!文島ちゃんの新兵器、ピッピちゃんキャノン!通称カラドリウスだー!!』

通称と正式名称が逆だが、そこは置いておくとして。


あれは数日前、まだキプロス宙域のヴァイス群が観測される前の事。



プロフェッサーT
「文島ちゃんはピッピちゃんと飛びたくないかい?」

明日翔
「できるんですか~?夢みたいですね~」

普通に考えてドレスギアのフィールドに小鳥を巻き込んでしまうと…悲惨な事になる。
どう悲惨かは言及を控えるが。

プロフェッサーT
「こいつがあれば宇宙だろうがどこだろうが一緒に飛べるさ」


そう言って設計書を見せたのがカラドリウスだった。

プロフェッサーTが言うに、大好きなペットと一緒なら明日翔の精神状態…つまりテンションが上がり、それに伴いエミッション出力も増大するらしい。

そこでピッピをピジョンに乗せて明日翔に同伴させる事で戦力強化が図れると言うのだが…。

輪島
「ピッピを戦闘に巻き込むことになるのですが、そこは?」

明日翔
「大丈夫です~」

輪島
「明日翔さん、しっかりと考えて下さい」

明日翔
「大丈夫です~わたしが護りますから~」

明日翔の表情を覗き込む。

何時もの朗らかな笑顔だが…その瞳に宿るエミッションの輝きは笑ってはいなかった。



そしてその言葉に偽りは無かった。

プロフェッサーT
『フィニーッシュ!!文島ちゃんとピッピちゃんのツープラトンアタックだー!!』

………
……

かくして遠く離れたキプロス宙域での戦いは…華々しく派手に終わりを告げた。


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