前回…→共鳴する宙 序 



「いらっしゃ~い!輪島ちゃん!文島ちゃん!」


アッパーシャード。

指定されたトラベルオーダーの研究施設に明日翔を伴って訪れたのだが…。


応接に通され待つことしばし。


現れた男のけたたましい歓待を受ける事になろうとは。


明日翔は何時もと変わらずにこにこと平静を保っている。


私は胡散臭そうな眼差しを目の前の男に向ける。


明日翔も私も沈黙を守ったまま…。


「なんだよ何だよ?ノリ悪ぃなぁ?ここはウェーイとか返すのがスジってモンだろ?」


何者か分からないがうるさい事この上無い。

…これが所謂ところの「パリピ」と言うものなのだろうか。


輪島

「貴方が私達を呼んだ…?」


「応ともさ!トラベルオーダーイチのギアフリーク!チャン僕こそが!プロフェッサーTさ!!」


私の怪訝な眼差しもなんのその。


ここまでのやりとりで分かったのは、肩書きとうるさい男だと言う事。


風貌はスキンヘッドにラウンド型のサングラス。

よれた白衣を羽織っている。

色白なのはラボに籠っているからか。


そして名は名乗らない。

何でもトラベルオーダーの個人情報は厳重に秘匿されるものらしく、肩書き、通称で呼び合うのがここでの嗜みらしい。


兎に角良く喋る。

しかもどうでも良い四方山話ばかり。


一向に場が進まないので、こちらから用向きを尋ねる。


プロフェッサーT

「何だよ~もう少し親睦を深めてからでもい~だろ~?」


こんなのと親睦を深めたくないから切り出したのだが。


プロフェッサーTは喋り足りないらしく、渋々本題に入る。


プロフェッサーT

「この前のハルジオン作戦、お疲れちゃん。アレは不幸な事故だった」


これまでの胡散臭いノリはそのままだが、幾分大人しくなる。


プロフェッサーT

「だがアレのお陰でシャード中が紛糾しているのは、輪島ちゃんも知っての通りさ」


プロフェッサーは室内の照明を落とすと、大型のプロジェクターを操作する。


そして映し出されたのは、一人のアクトレスと特異型リコサアラゴギ。



画面には戦闘中のパラメータもリアルタイムで表示されている。


だが…危険度120!?

深層の最奥レベルの敵と差し向かいで戦おうと言うのか?


明日翔でもギリギリの戦いになるレベルだ。



白装束のアクトレスはまるで恐れを見せず、果敢に斬り込む。

特異型リコサアラゴギは、通称蜘蛛アグレッシブと呼ばれアクトレスから恐れられる難敵。

しかもこの危険度となると、単身挑むのは無謀だ。

明日翔
「白いアクトレスが勝ちますね~」

表情を変えず、静かに戦闘の経過を見つめる明日翔が予言する。


本当に勝ってしまった。

こんなアクトレスが居るとは…。

プロフェッサーT
「どうだい?良い塩梅だろ?…吾妻ちゃんカモン!」

プロフェッサーが呼ぶと、ドアが静かに開き、白装束のアクトレス…吾妻楓が一礼し、入ってくる。

吾妻楓。
かつては叢雲工業お抱えのエースアクトレスだったが、叢雲が不正により失脚した後はフリーのアクトレスとして活動していたはずだ。

その実力は確かなもので、私も戦闘履歴を見た事はあるが、資料よりも遥かに強い。

今の映像を見るに、明日翔と比べても見劣りしない程だが…そんなアクトレスが居るとは…。


プロフェッサーT
「それじゃもひとつ」


今度は全身黒ずくめのアクトレス。
こちらは危険度90と表示されている。

先程の吾妻楓とは違い、戦闘空域丸ごと単身で突き進む。

背中に冷や汗が流れる。

危険度90。
明日翔なら難なく突破するが…ティタニアの面々では危うさが残るので、チームで当たらせている。

それを単身で抜けようと言うのか。

…たが。
この後ろ姿…。

プロフェッサーT
「気づいたかい?」

二子玉舞!?
プリマを思わせる純白のスーツにギアを纏い、可憐に戦場を彩るフェアリーハート隊でも人気の高いアクトレス。

それが何故?
真っ黒なスーツに漆黒のギア。


戦場は大詰め。
これが最後だろう、強化個体のケルベロス。

絶え間なく広範囲に向けて光学兵器を撃ち、合間には近接格闘も仕掛けてくる難敵。

だが普段の舞からは想像もつかない苛烈なアタックを仕掛け…。


ついには倒してしまった…。

あの舞が…?

身体能力は高いのだが、性格的に気後れしてしまい、攻め手を欠いてしまう何時もの舞ではない。

何よりスーツもギアも全くの別物だ。
単に塗装しなおしただけ…等ではなく、割り当てられている機能が根本的に違う。

プロフェッサーT
「二子玉ちゃんもカモン!」

やはり静かにドアが開き、舞が入室する。

だがスラリとした長身は縮こまり…少し震えているように見える。

「…隊長さん…ごめんなさい。私、隊長さんのお役に立ちたくて…」

消え入るような細い声で謝罪を紡ぐ。

強くなりたくてプロフェッサーTの計画に加わった、と言うことなのだろう。

プロフェッサーT
「どうだい?吾妻ちゃんのことは兎も角、二子玉ちゃんが生まれ変わったのは輪島ちゃんが一番分かるだろ?」

プロフェッサーTはプロジェクターに二人のデータを投影する。

何だこれは…?

スーツもギアも見たことの無い高性能品に置き換わっている。

プロフェッサーT
「エニグマとアナザーギアまでは輪島ちゃんも知ってるだろ?だがそれだけじゃない。この二人にはファクタースーツを与えてある」

エニグマは最近導入された新システムだ。

この前、美幸にも導入したが、アクトレスの戦闘経験をギアとリンクさせ、運用効率を向上させるものと聞いている。

またアナザーギアは、まだ実装例こそ少ないが、従来のギアよりチューニング可能な箇所が増え、拡張性の高い次世代モデルとされている。

それに…ファクタースーツなる未知のものがあると言うのか。

プロフェッサーT
「さて、ここからが本題さ。文島ちゃん…キミは一体何者だい?」


次回…→共鳴する宙2