前回…→追想の宙は燃えて3
ミア
「隊長…どう、されますか?」
ミアがおずおずと伺いを立てる。
美幸が先の戦闘で戦列から外れざるを得なくなり、こちらの想定よりも芳しくない状況になっている。
だが迷っていられるような時間も無い。
朱音
「あぁ!もぅ!!何時まで続くのよ!これ!」
天音
「お姉ちゃん熱くならないで…やられちゃうよ」
作戦開始から既に203分が経過している。
いくら星守特訓で鍛えたとは言え、あと1時間はもたないだろう。
輪島
「…美幸さんは帰還して下さい。ミアさんは美幸さんの護送を。明日翔さんと絵美さんは…このまま最終攻撃目標へアタック」
次の攻撃目標には明日翔、美幸、絵美で仕掛ける予定だったが、こうなっては仕方がない。
美幸の抜ける穴をミアに埋めさせることも考えたが、どこでヴァイスと遭遇するか分からない宙域で、シールドを失った美幸を一人にするのは危険過ぎる。
絵美
「…二人で、ですか…?」
絵美の声は怯えに震えていた。
無理も無いだろう。
この先に待ち構えるのは、先程よりも危険度の高い敵。
正に今、戦い、三人掛かりでも全員健在とはいかなかった敵よりも更に強力な陣容に、二人で挑めと言う命令は確かに酷だ。
それは分かっているが、それでも命じなければならない。
明日翔
「絵美さん、あれが見えますか?」
絵美
「?」
明日翔
「ほら、あの光る点…」
絵美
「はい…あれは?」
明日翔
「東京シャード…わたし達のおうちです」
絵美は、はっとする。
この距離だと、恐らく胡麻粒よりも小さく見えていることだろう。
明日翔
「今は皆が頑張って守ってくれてます。でもわたし達が…」
今度は反対側を指し示して
明日翔
「敵をやっつけないと、帰るおうちが無くなってしまうんです。お父さんにもお母さんにも友達の皆にも会えなくなってしまいます」
絵美
「天ちゃん…ひかりちゃん…ネポム…」
絵美の脳裏にヘットカットハイスの家族がよぎる。
明日翔
「だから…行きましょう。大丈夫。隊長もついてますから。今までだって、こうしてやってきたでしょう?」
絵美はまだフェアリーハート隊として、ティタニアとして日が浅いかもしれないが、フェアリーハート隊は誰の目にも留まらない深い宇宙の底で、人知れずシャードを守ってきた。
文島明日翔。
一見穏やかなこの少女のどこに、こんな堅牢強固な闘志が眠っていたのだろうか。
明日翔
「この力で皆を護れるなら」
始めはただ「鳥のように空を翔びたい」と願っていただけだったはずなのに。
何時しかその翼はただ宙を翔るだけでなく、人類を包み、護るように大きく広がり。
14分
もう私から指示を出す必要も無かった。
明日翔と絵美は見事に戦い抜き、東京シャード…だけではない。
同じく深層の脅威に晒された関東圏のシャード郡をも救ったのだ。
これで当座の危機は回避出来た。
だが問題は山積みだ。
「深層」の存在が明るみになってしまった以上、社会的に物議を醸すだろう。
しかしそれはアクトレスが対処する問題ではない。
これは「大人」達の問題だ。
もえ
「敵の勢い、弱くなってきました?」
利佳
「あぁ…どうやら向こうも終わったみたいだ」
もえ
「やりましたね!もえたちの勝ちです!」
利佳
「一休みさせてもらったら外周の修繕だな。忙しくなりそうだ」
今はこの厳しい局面を乗りきったアクトレス達を労おう。
次回…→追想の宙は燃えて 終幕