前回…→追想の宙は燃えて2
輪島
「これが最後のブリーフィングと補給になります」
本来ならもっと細かく戦闘を区切り、都度補給しつつ万全を期して臨みたいのだが、今現在もシャード周辺では守備隊が戦闘を続けている。
長期戦になれば、物量で押しきられてしまうだろう。
ここから先の宙域図を示し、進軍経路と敵軍の配置を確認していく。
一通りの作戦を伝えると…本題を切り出した。
輪島
「美幸さんのエーススーツが先程、ロールアウトされました。またそれと同時にエニグマの解放許可も」
エーススーツ及びエニグマ解放による美幸のステータス試算結果を映し出し、変更点等を伝えていく。
これまでは近接兵装に出力を回していたが、普段の美幸の戦闘スタイルを考慮した結果、こちらは射撃兵装を重点運用するように改変されている。
エニグマは本人の戦闘経験をエミッションを介してギアと連携、その強みを引き出す性質のものなので運用に特段問題は無い。
実際フェアリーハート隊でも既に数名がその恩恵に預かっている。
だがエーススーツは運用そのものが変わるので、ロールアウトした後も試験運用を経て、細かく調整した上で実戦投入されるのが通例だ。
性能は高いが未調整での着用はリスクが高い。
その旨を美幸に伝え、それでも尚、使用の意思があるか確認する。
美幸はしばらく宙域図を睨み
「…使います。それで少しでも早く敵を退けられるなら」
その返答を受けて整備班にエーススーツとギアの連携登録を指示。
調整…いや、この場合は順応と言うべきか…は実戦の中でやってもらうことになる。
美幸の脇は明日翔とミアで固め、サポート体制を万全にする。
緒戦の特異型セルケト。
序盤はミアが牽制し、美幸へと継投。
だが…明らかに美幸の動きが鈍い。
美幸
「あれ!?何か反応が…?」
セルケトが必殺の一撃を放つべく、攻撃シーケンスに入る絶好の隙にも動けずにいたが、そこは咄嗟の判断でトップス全門斉射で辛くも切り抜けた。
やはり調整出来ていないのが仇になったか。
その先は明日翔とミアがフォローしてジェズルまで下す事は出来たが、肝の冷える一戦だった。
ここから先は二手に分かれての進軍になる。
左舷側は絵美、美幸、ミア。
ここから先にはまだ戦闘データの無い、見た目からストリックの亜種と思われる個体が観測されている。
第一波との交戦開始からここまで、既に138分が経過。
本来なら一度帰還させて、美幸の装備をノーマルスーツに戻さなければならないが、そんな時間的余裕は無い。
乙莉
「また!また来た!」
唯
「まだよゆーだっつーの!」
唯の悪態が乱れた息づかいに乗って届く。
守備隊の状況も確認しているが、終わりの無い防衛に不安と苛立ち、そして疲労が混じり始めているのを感じる。
先の戦闘で美幸が少しでもエーススーツに馴染んで、何時もの動きに近付ければ良いのだが…。
対する右舷側
こちらは明日翔を信じるしかない。
既に危険度は3桁に到達。
ティタニアでもスリーマンセルで臨みたい程なので、せめて一人でも随伴させたいところだが、その余力も無い。
明日翔
「大丈夫ですよ~」
何時もの調子で戦場にふわりと飛び入る。
何度見ても大したものだと感心するしか無い。
アクトレスと言う存在すらよく分かっていなかった少女が、鳳加純と出会いこの道に踏み出して数ヶ月。
文島明日翔は成るべくしてアクトレスになったのだと思い知らされる。
一方その頃。
絵美たちも三人寄れば何とやら、順調に攻略を進め、ストリック亜種に王手をかけたその時。
これでとどめ!と言わんばかりに放った美幸の高出力砲は…僅かに及ばなかった。
まだ出力の感覚を捉えきれてなかったのだろう。
完全に機を見誤ったとしか言い様が無い。
強烈な一打をもらった怒りか、はたまた苦悶でのたうち回っているのか。
ストリック亜種が激しく暴れ、美幸を追い回す。
あまりの激しさにミアも絵美も手が出せず…。
光里
「千島美幸、シールド消失!戦闘続行不能!」
美幸に一矢報いて溜飲が下がったかのように動きを緩めた瞬間を絵美が射貫き、ストリックは爆散した。
美幸
「こんな時にわたしったら…また…」
ミアにすがって泣き崩れる。
シールド消失時の保安機構により、美幸自身は無事だったが、これ以降の作戦行動には参加出来ない。
ミア
「行きましょう…まずは文島さんと合流して、隊長の指示を仰ぐべきです」
ミアが美幸を抱き留めて宥めつつも適切と思われる提案をする。
美幸もしゃくりあげながらも頷き、予定されている合流ポイントに向けて飛び始める。
次回…→追想の宙は燃えて4