前回…→追想の宙は燃えて1 




明日翔

「戦闘空域に到達、交戦開始します~」



右舷側明日翔から口火が切られる。

バンブラとネペンテスの属性亜種が観測された空域。

危険度レベルは80。
明日翔なら何も問題は無いだろう。

危険度レベルはアクトレスのエミッション値で幾つ相当になるのかを表した指標だ。

エミッション値には当然ながら個人差があり、一般的なアクトレスでは15~30に収まる。

適性の高いアクトレスでも60あたりまでが精々。

本当に一握りの、アクトレスになる為に生まれてきたような者でも80が限界とされている。

危険度レベル80。
つまり深層ではアクトレスの能力限界が最底辺でしかない。

そしてこれより奥に行けば行く程、危険度は上がる。
アクトレスでは本来太刀打ち出来ない程に。

そんなヴァイスが居るとなれば、不安を感じない者は少ないだろう。
それ故にこの深層は存在する事自体が秘匿されてきたのだが…。


時に熟練を重ねたアクトレスの中には、その限界を超える者が現れる。

フェアリーハート隊の主要メンバーはその限界を超える力を身に付けているが、その中でも格段なのが明日翔だ。



竹を模したと思われるバンブラを串刺しに射貫き


続くウツボカヅラのようなネペンテスを下して尚、余力がある。


対して左舷側。



美幸
「やはり明日翔ちゃんは凄いですね」

ミアとのペアマッチでガーデンを丁度撃破したところだ。

絵美は二人のフォロー程度に留め、力を残している。

絵美
「次はわたしから行きますね」

ミア
「お願いします。ですが少し急ぎましょう、この先は分担して事に当たるのが良いかと」

左舷側にはまだ多数の大型が残っており、あとは小物を掃討するだけの明日翔と歩調が乱れてしまう。




絵美の容赦ない斬撃がモスを切り裂き


ミアの放つ氷華が分離したバンブラの節を打ち砕き


美幸は属性ファルコンの苛烈な弾幕と真っ向から撃ち合い、競り勝つ。

左舷側がクリアになった事を確認すると時を同じくして

明日翔
「こちら、終わりました~」

右舷側からも通信が入る。

…まずは第一陣を押し返せたか。

だが東京シャードの周辺ではいまだ散発的な戦闘が続いており、四方の守備隊が対応に当たっている。

作戦開始から既に63分が経過。

普通なら活動限界を超えてしまっている稼働時間だが、フェアリーハート隊は星守特訓をあれ以降も継続している。

体力、持久力、根性。
そう言ったものが大きく鍛えられたお陰で、防衛線の維持は、今のところ問題ないが、実戦の消耗は激しいもので、如何に13時間10分の連続的な運動が出来たとしても、作戦行動の限界は精々4時間だろう。

明日翔達が一度戻り、補給とメンテナンスを済ませ…次に出撃したら、もう帰還させられる時間的余裕は無い。

端末に目を落とし、アレのスペックを改めて確認する。

一か八か、これを使うべきか。
まだ迷いはあるが、この賭けに勝たなければ先は無いかもしれない。

美幸
「フェアリーオブフェアリー及びティタニア帰還しました」

Dockから通信が入る。

…決断の時が来た。