→…これは演習である 7 より


朱音

「うーん、やっぱり追い付けなかったかぁ」


明日翔達が帰艦し、薫子組のバトルログとこちらのログを照らし合わせた結果、向こうの方が2分8秒早く作戦を終了していた。


………

……


数日後。

Aegis支給の体操服に着替えたアクトレスがグラウンドに集合した。



指導に当たる薫子も体操服に着替えてやる気満々だ。

薫子
「全員揃ってるわね?では始めましょう。今日、皆にやってもらうのは…」


薫子
「全力ダッシュ10分間」

安里
「10分も走るの?全力で?」

もえ
「もえ、走るのは得意ですよー」

絵美
「わたしは苦手だなぁ…」


薫子
「素振り1時間」

ミア
「野球のバットで、ですか?剣や槍ではなく?」

美幸
「でもハンマーなら応用できるかも?」

利佳
「走り込みと言い、球団でも創る気?」


薫子
「ダンス4時間。これはやったことがある人もいるかしら?」

美里江
「これはまさか…神樹ヶ峰女学園の…?」

「あー…そう言えばなんか聞いたことあるわね」

アオイ
「聞いた話だと隊長も元はそこの先生だったそうね」


薫子
「最後に縄跳び8時間」

明日翔
「翔ぶのなら任せてください~」

地衛理
「良いわ!やはり山野教官なら私を追い込んでくれそうね」

朱音
「ところで何でこの子、ドレスでこんなことを?」


薫子
「気付いてる子もいると思うけど、これは業務提携している神樹ヶ峰女学園の星守クラスの基礎練習よ」

基礎練習。
その単語にざわめきが疾る。
(これで基礎?)
(星守ってなんなの!?)
(これ以上すごいのとか想像できないんだけど)

薫子
「星守はかつて、たった16人でイロウスから地球を奪還しているわ」

イロウスは神樹の加護を受けた少女にしか倒すことは出来ない。

それはエミッションを持つ女性にしかダメージを与えられないヴァイスに似ている。

薫子
「つまりこの特訓で鍛えれば、私達もヴァイスから地球を取り戻す事が出来るはずよ」

不満を垂れ流す隊員を諭すように説明する薫子。

そこに朗らかな声が響く。

ミシェル
「みんなこれから特訓するの?ミミ今日の分、まだやってないから一緒にやっていい?」


どう聞いても地獄のような特訓メニューに嬉々として飛び込んできたのは、正に星守であるミシェルだった。

朱音
(自分から飛び込んでくるなんて嘘でしょ!?)

薫子
「えぇ勿論良いわよ。皆にもやり方教えてあげてくれるかしら?私も指導要綱を御剣先生から貰ってるけど、実際にやるのは初めてだから綿木さんがいてくれると助かるわ」

ミシェル
「うん、いいよ~。じゃぁ始めるね~」


そして過酷な特訓が始まった。

薫子は指導役ではあるが、一緒に同じメニューをこなしている。

そして参加者の中でも一番年若いミシェルも上機嫌で消化していく。

そんな環境なので愚痴や文句も言いにくい雰囲気が漂い、粛々と特訓が執り行われる。

薫子
「はい、ここまで。皆お疲れ様。綿木さんも有難う」

ミシェル
「むみぃ♪」

特訓開始から13時間10分後。

日も暮れて煌々と照明に照らされるグラウンドに累々たる屍の山が築かれる中、正体を留めている影は4つ。

明日翔
「はぁ、ふぅ…これは~…さすがに~……疲れました~………」

絵美
「う………吐きそう………」

薫子とミシェルは平然と。

明日翔はふらついているが、まだ立っていられるようだ。

絵美も辛うじて立ってはいるが、もはや死に体で何時倒れてもおかしくない有り様。
絵美がここまで頑張ったのは…今回の戦いで悔しい思いをしたからかもしれない。

残る参加者は汗と涙の染み込んだグラウンドに溶けるように沈み込んでいる。

(こいつら化け物か…)
(星守こわい…)
(あれ…?お母さん…なんでここに…?)
(いいわ!もっと……………!)

薫子
「それじゃ次回はまた来週ね」

(え?何?これで終わりじゃない感じ?)
(alc003機能停止しマス。博士ご免なサイ)

………
……

数年後。

フェアリーハート隊の名は最強のアクトレス集団としてアウトランド中に轟き、ヴァイスを根絶し、地球奪還まで成し遂げたとか何とか。

後世の歴史書には多分そう記されているかもしれない。


                                          これは演習である 了