→…これは演習である 6 より
先の戦いでリベンジは果たせたが、薫子達は既に最終戦に取り掛かっている。
唯
「さすがにこれは追い付けないかぁ…」
唯が悲しそうに溜め息をこぼす。
こちらはこれからメンバー選出に出撃準備の手順があり、とかなり出遅れている。
だがこのまま戦意喪失と言うのは避けたい。
さて。
輪島
「では次はチャンスタイムとしましょうか」
もう先の戦いでチーム編成の制約は崩れている。
何よりモニターに投影される敵戦力の分析結果を見るに、生半可なアクトレスでは歯が立たないだろう。
最後は自由に編成させて最大戦力をぶつけられれば、幾分望みも出てくるはずだ。
美幸
「何だか久しぶりですね、この三人で出るの」
ミア
「そうですね。前回は成り行きもありましたが、アオイさんやもえさんに譲りましたし」
明日翔
「今回のはかなり強いので~お二人とも気を付けて下さいね~」
即決で満場一致した三名は「最強のフェアリー」と隊内でも呼ばれる実力者だ。
だか今回初めて観測されたグリフォンは、大型ヴァイスを同時に2体相手にするようなもの。
それでも絶対の勝利は望めないだろう。
そして敵陣は頭からケルベロスが待ち構えている。
ここ最近、新型のヴァイスが頻繁に観測されるようになってきたが、それでもケルベロスを超えるような強力な種は中々見られない。
高いモビリティとハイカロリーな攻撃力、攻撃パターンの多彩さ。
かなり古くから観測されていながら、今尚アクトレスから脅威とされている。
明日翔がシールド修復で場を保たせ、美幸が薙刀を巧みに操り猛攻をいなし、ミアが盾を構えてブロックする。
反撃出来る隙はわずか。
その好機を逃さんと、虎視眈々と伺う。
明日翔、美幸、ミアとリレーの様にバトンタッチしてケルベロスを撹乱しつつ、押していく様は長年連れ添ったが故のコンビネーションの賜物か。
明日翔
「当たって~!」
明日翔の放つ銃弾はケルベロスの駆動中枢を正しく撃ち抜いた。
この様子を艦からモニターで見守る隊員達から「っ…はぁ」と安堵の息が漏れる。
見ているだけでも息の詰まるような激しい戦い。
だがまだここは入り口に過ぎない。
………………
美幸
「ここはわたしに任せてください」
中堅はモス。
ケルベロスに比べればかなり見劣りするが、危険度が3桁に達しているのは変わらない。
一撃でも貰えば危うい事になりかねない。
ミア
「大丈夫ですか?無理はなさらなくても」
美幸
「二人は少し休んでてください。きっと…次はお二人の力が必要になると思うから」
美幸
「電撃のティタニア、千島美幸。参ります!」
美幸
「正鵠、頂きました」
普段は穏やかな手弱女振りの佇まいを見せるが、大和撫子たる美幸は弓と薙刀もまた嗜んでいる。
長年培ったその技は、彼女にとっては息をすることと同じくらい自然で、身体の髄まで染み込んでいるのだろう。
日常ではおよそ想像も出来ないような珍事を繰り広げるが、こと戦いについては人が変わったように凛然と振る舞い始める。
美幸
「次に進みましょう」
…………………
ミア
「これが…」
二対一体のグリフォン、こうして分かれている時はレオ、イーグルとコードが割り振られている。
明日翔
「連携のパターンはさっきお話した通りです~」
絶え間無い連撃と複合的なパターン。
相対するには広い視野と高い空間認識能力が求められる。
だが言うは易し行うは難し。
美幸が連携の網に絡めとられる。
美幸
「くっ…もはやこれまで…でも!」
美幸がせめて片割れを道連れにせんとHDMにアクセス。
美幸
「ご免なさい…あとはお願いします…」
渾身の一撃はレオユニットを大きくひしゃげさせたが、相討ちには至らず。
絵美
「あぁ…っ」
絵美がモニターから目を背ける。
数時間前に同じ目に合い、そしてその後どうなったか、苦い思いをしているだけに無理からぬところだろう。
輪島
「絵美さん…いや若いティタニア。良く見ておいて下さい。フェアリーの翅、その本当の強さを」
フェアリーハート隊。
攻撃性を捨てて、持久力と耐久性に特化した部隊。
それ故にスナイパーズ!やマエストロ隊と言った攻撃部隊を支援組織として編成し、今回はその連携訓練の場としていたのだが、今戦場に立つのはフェアリーだけだ。
敵の攻撃をインターセプトする能力は低く、敵の攻勢を許してしまうことも珍しくない。
だが。
ミアも明日翔も諦めてはいない。
二人が同時にシールド修復機能を展開して、全方位から包み込むように殺到する熱線に耐える。
耐える!
耐え抜く!!
これがフェアリーの戦い。
薄く儚く見えて決して破れぬ、しなやかな翅。
絵美
「すごい…」
その頬には一筋の涙。
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