→…これは演習である 5 より


一方を撃破したが、健在な個体が破壊された個体を取り込み、更に巨大化する。


朱音

「こんなの反則でしょ!?」


朱音の苛立ちが真空に溶ける。



一方、絵美チームは…。



一切小型が存在しない空域で、大型との連戦が続く。

美里江が切り開いた道の先で、絵美と利佳の二人がかりでヒュドラを切り崩し、明日翔チームと同じく、二体一対のヴァイスと向かい合う。

利佳
「そう来たか…くそっ」

絵美
「そんな…こんなのって」

利佳が不測の事態に毒づき、絵美は動揺する。


二体一対のヴァイスは絵美の動揺を見逃さなかった。

絵美
「えっ!?…きゃぁ!?」

死角からの波状攻撃をしのぎきれず、良いように翻弄される。

絵美はアクトレスとしての力量は高い。
だがアクトレスになってから、まだ日が浅すぎた。

絵美最大の弱点、経験不足。
それが如実に表れた。


光里

「我龍絵美、シールド消失!戦線離脱」


絵美を欠き残された利佳、美里江も崩されるまで…然程の時間は必要無かった。




絵美チームの窮状を知る由もない明日翔チームは、少しずつパターンを感じ取りながら応戦している。


弾幕の濃いところを明日翔がしのぎ、朱音が僅かな隙を捉えて撃ち込む。

明日翔
「朱音さん!」

朱音
「オーケー!任せて!!」

合体したヴァイス、仮称グリフォンが突進を仕掛けてくるタイミングを見逃さず、カウンター気味に全砲門を開く。

朱音
「墜ちなさい!!」

…………
……

絵美
「ごめんなさい…」

ブリーフィングルームに絵美の嗚咽が沈殿する。

戦いに必勝は無い。
だがフェアリーハート隊最上位、ティタニア。

それは薄く脆く見えても、決して破れてはならない翅であると、その座に就いた時に諭される。

アオイ
「これは演習だから…ね?」

絵美はうつ向いたまま。
アオイの慰めも絵美には届かない。

明日翔
「隊長。絵美さんと翔んでも良いですか?」

明日翔からの提案。

今回私が設けた制約では明日翔と絵美をチームとして編成は出来ない。
だがアオイの言う通り、これは演習…訓練の一環でもある。

絵美は明日翔が直に指導している、言わば弟子のようなものだ。
明日翔は現場で直接指導したいのだろう。

これで絵美の自信を損ねても本末転倒。
ここは柔軟な対応を採るべきだ。


明日翔は絵美と唯を伴い翔ぶ。

明日翔
「唯さん、水先案内お願いします~」

「はいな。唯に任せて」


サーペント、そしてそれに続くVWジェズルを撃ち落とし、明日翔と絵美を無傷で送り届ける。

「それじゃここから先はお願いね」


続くヒュドラは明日翔が頭を落とし、絵美が本体を叩く。

ヒュドラはその巨体の割に脆いところがある。
攻撃力はその分高いのだが、フェアリーを落とすには至らない。

ここまでは順調だ。

明日翔
「このヴァイスは突進が多いです~。でも同時にはきません~。交互に順番にくるので、リズム良く避けてみて下さい~」

絵美はひとつ頷くと二対一体のヴァイスに向き合う。


絵美
「出来た…!」

明日翔からの補助を受けながら、絵美は着実にヴァイス達を圧していく。

そして合体したグリフォンを二人がかりで追い詰めていくが…


明日翔
(止められない…!)

グリフォンが起死回生を狙った攻勢、その出鼻を挫く事が出来なかった明日翔は即座にフェザリーヴェールを展開し、その猛攻を受け止める。

明日翔
「絵美さん!」

明日翔に促され、絵美も画竜点睛で打ち返し、相殺していく。

明日翔
「当たって~!」


明日翔の放った電磁加速弾が動力中枢を撃ち抜き、グリフォンは沈黙した。

絵美
「終わった…の?」

「やるじゃん。ずっと見てたけど、凄かったよ」

絵美は脱力してへたり込む。

激しい戦いだったが、この経験が次に活きてくるだろう。

残る交戦ポイントは1箇所。


生半可な戦いでは済まないだろう。