記者会見の会場にどよめきが拡がる。


特殊宙域作戦は、その開戦前に記者会見が行われ、観測された敵陣容や作戦の大まかな流れ、そして出撃するフェアリー…フェアリーハート隊所属のアクトレス…のオーダーを公開しているのだが、今回はその内容が驚きをもって受け止められていた。



輪島

「今作戦、Op.ブーゲンビリアにおいて、私は作戦指揮を執りません」


そして壇上で隣に侍らせていた薫子を呼び寄せ。


輪島

「今回はフェアリーハート隊リーダーである山野が、私に代わり現場で指揮を執ります」


どよめきがさざ波の様に広がり、困惑が会場に行き渡るのが手に取るように感じられる。


更に私は言葉を紡ぐ。


輪島

「そして今回のオーダーは…」


さざ波はうねりに変わり、フェアリーハート隊の記者会見としては異例の様相を呈する。


オーダーの中にはフェアリー オブ フェアリー文島明日翔の名も、ティタニア4名の名も無かった。


………

「大丈夫なのか?」

………

「どう言うつもりだ?」

………

「まともに戦えるのか?」

………

「これじゃ視聴率が…」

………

「隊内で何かあったのか?」

………


私は狼狽する報道陣にニヤリと笑みを向けて続ける。


輪島

「フェアリーハート隊は新たなステージに立とうとしています。皆様も御存知の通りヴァイスは進化を続け新種も次々と発見され続けている中、私達も新たな力を身に付けていかなければなりません」



輪島
「この度、須賀乙莉、琴村天音、王紅花。Aegisよりこの3名にエーススーツの着用認可を頂きました」

エーススーツはAegisによる考課を経て承認されるハイスペックスーツであり、これを着用する事でアクトレスは更に高いエミッション出力を得ることが可能になる。

それはアクトレスとしての戦い方が全くの別物になる程、劇的な変化をもたらす。

エーススーツを認可されたフェアリーもかなり増えており、もう浅層や中層では明日翔達を出すまでも無いだろう。

言わば今回の作戦は、フェアリーハート隊にとって実戦訓練の側面が強い。

マスコミにはそうした目論見は伏せて、新たな「エンターテイメント上の演出」のように見せている。

輪島
「皆様には新たなエースの誕生、その瞬間を見て頂きたく存じます。より層の厚くなったフェアリーハート隊。皆様のその目で、お確かめ下さい」

そう会見を締めて私は壇を降りた。



翌日。
この会見はニュースとして報道各社が大々的に取り上げたが、やはり楽しいサプライズと言うよりは衝撃として受け止められたようだ。

特に派手な見出しを好み、事実の歪曲も厭わないスポーツ紙等は「フェアリーハート隊分裂か!?」等と笑ってしまうような一面記事を掲載している。

軽く目を通すに、どうやら私がティタニタを引き連れて独立(?)し、薫子新隊長による新生フェアリーハート隊が誕生するらしい。

またワイドショーでは次の特殊宙域作戦の正否を、わけ知り顔で得々と語る評論家が。

評論家
「確かにフェアリーハート隊は人員拡充も進めていますし、毎回フェアリー達の練度も上がっています。ですがティタニタの一人も出さないと言うのは、まだ時期尚早ではないかと。特殊宙域作戦は確かに中継され、エンターテイメントの側面もありますが、一方で東京シャード防衛と言う重要な……」

どうやら今回の采配は悪ふざけが過ぎると言う論調のようだ。

どの様に受け止められたとしても、世間的にかなりの注目を集めているのは間違いないだろう。

…こちらの想定通りに。

会見でも言ったように、ここ最近ヴァイスの進化速度はかなり速くなっていて、頻繁に新種や従来種の特異型や属性亜種が確認されている。

フェアリーハート隊自体の強化も進めているが、もっと劇的な戦力拡充が必要なところまで来ている。

まだ正規に発表していない新設部隊、ラプタービーク隊。


御茶ノ水美里江
紺堂地衛理
新居目安里


そこにティタニタと兼任になってしまうが、春日丘もえを加えた4名で構成される、フェアリーハート隊の支援部隊。

ビジョンによる広域制圧能力で迅速なヴァイスの沈静化を目的としている。

この実戦配備を急がなくてはならない。

まだ計画段階の部隊を秘匿裏に訓練、評価する為に、今回のコーカサス宙域を試験場として利用させてもらうべく、会見では派手に芝居を打ったわけだ。

薫子が指揮するフェアリーハート隊がスケープゴートとして隠れ蓑になるだろう。


作戦当日。
思惑通り、薫子達に報道陣の注目が集まる裏で、私達はワープドライブで密かに深層まで飛んだ。


一の実戦は十の訓練に勝る。
Op.ブーゲンビリアを踏み台に、フェアリーハート隊はエミッションに磨きを掛ける。