前回→…金蓮花の花束を14
輪島
「良く無事に戻ってくれました」
緊張の糸が切れたのか、戦闘終了後にぐったりと気絶したもえを両脇から支えて、明日翔とアオイが帰艦する。
アオイ
「とんでもない新人を見つけてきたわね」
明日翔
「もえさんのお陰で助かりました~」
パルミラ宙域に最早ヴァイスの反応は無い。
作戦は完了だ。
もえは医務室に運び、医療班によるメディカルチェックを受けさせる。
もえが突如戦闘空域に現れたのは何故か。
もえを連れてきたであろうトラベルオーダーと連絡が取れれば話は早いのだが、あの電信を一方的に送りつけて姿をくらました。
色々腑に落ちないところはあるが、それはもえが目を覚まして落ち着いてから聞いても良いだろう。
宙域の安全は確保されたので、帰途はワープドライブが使える。
東京シャードまで、ものの数時間で帰れるはずだ。
それまでの間に艦を回り妖精達の労を労う。
………
……
…
数日後
東京シャード、成子坂製作所
輪島
「皆様の奮闘あって、ナスタチウム作戦は無事に完了しました」
特殊宙域作戦後に開催される祝勝会にて、改めて作戦の総括と隊員へ労いの言葉を紡ぐ。
だが今回はただ祝勝会だけではない。
輪島
「そして今作戦で新たな仲間を迎える事が出来ました」
バージニア、もえを壇上に招き、改めて紹介する。
バージニアは元々成子坂の所属なので顔馴染みだが、もえははさみメンテナンスからの移籍となる。
しかもかなり特殊な経緯で合流したこともあり、皆興味津々のようだった。
もえ
「はさみメンテナンスから来ました!春日丘もえです!よろしくお願いします!」
あの戦闘の後、一昼夜目を覚まさなかったので心配したが、今ではすっかり元気になったようだ。
生来の快活さもあり、人懐こいもえなら隊に馴染むのも然程時間はかからないだろう。
祝勝会を兼ねた歓迎会の合間にもえを呼び出して、あの時に何があったのか聞いてみた。
もえ
「あー…あの時はですねー」
もえから聞いた話をまとめると、トラベルオーダーの艦で当艦の近くまで来たところで、フライトプランを渡されて発艦させられ、単身こちらの艦に向けて航行していたのだが、途中でプランを間違えて航路が逸れてしまい敵陣に突っ込んだ…と。
また、もえを担当したトラベルオーダーはその際に
「これはサプライズです。こっそり近付いて隊長を驚かせて下さい。貴女の到着時刻を見計らってこちらからも電信は送りますので、細かいところはお気になさらず大丈夫です」
と言っていたらしい。
あの緊迫していた状況で何故そんな事をしようとしたのか…私には分からない。
もえの話しぶりを聞くに、たまに見かける悪戯に命をかけるトリックスター…かなり性格的に問題がある担当官だったのだろう、としか思えない。
一歩間違えばもえの命も危ういところだったし、こちらの作戦行動も破綻しかねなかった。
次に会う機会があるのか、それは分からないが、その時は一発シバくくらいはしておかなければならないだろうか。
まだ釈然としないところもあったが、話も聞けたので、もえを会場に戻して明日翔を探す。
明日翔
「これならピッピちゃんも食べられますね~」
サラダからレタスを摘まみ取り、肩に留まるピッピに与えている。
輪島
「明日翔さん、楽しんでますか?」
明日翔
「あ、隊長さん~」
輪島
「今回の宙(そら)は如何でしたか?」
明日翔
「そうですね~やっぱり宙は広いと思いました~毎回見たことのない敵が出てきますし、わたしもまだまだなんだと思い知らされます~」
明日翔は悔しそうに笑う。
東京最強との呼び声高いアクトレス、鳳加純に見出だされた時は、まだアクトレスの「ア」の字も知らなかった明日翔。
だがその才は天賦。
ドレスギアを扱うために生まれてきたかの様に瞬く間に力を着け、今や東京シャードで知らぬ者無しのトップアクトレスにまで成長したが、彼女はまだ視線を下げる事無く上を見続けている。
明日翔の願いは「高く翔ぶこと」
フェアリーハートは私が明日翔と出会った事で動き始めた。
私の用兵が求める全てを備える明日翔。
明日翔も自らの願いを叶える為にフェアリーハートに身を委ねた。
この穏やかな少女の内に一体どれだけの闘志が秘められているのか。
まだまだ明日翔が目指す高みは遠いらしい。
そして私も何時しかその夢に想いを重ねるようになり、今では肩を並べて、歩幅を合わせて歩むようになっていた。
また遠くない内に次の作戦が発令されるだろう。
その時はもっと自由に明日翔が翔べるよう、私も力を着けなければ、と思う。
…
……
………
愛花
「隊長さん、今回のお花、こちらに置きますね」
祝勝会の翌日、愛花が鉢植えを事務所に飾る。