前回→…金蓮花の花束を 11 




光里

「作戦予定空域より救難信号!」


救難信号?

この無人の宇宙で?


一体何が起こったと言うのか。



光里

「信号の発信主は…アクトレス、春日丘もえ」


春日丘もえ!?


その名には覚えがある、と言うか…新たなフェアリーとして、はさみメンテナンス社から引き抜いたアクトレスだ。


益々わけが分からない。



もえはまだ訓練中で、今回の作戦には帯同させてはいない。
それが何故こんなところで遭難しているのか。

光里
「映像、出るわよ」


もえ
「ひゃわわ…!たすけてー!誰かー!」

小型のヴァイスに追い回されて必死の形相で応戦している。

光里
「トラベルオーダーから電信有り」

こんな時に次から次と!

内容に目を通すと、どうやらこちらへの援軍としてもえを送り込んだらしい。
あの連中、功を焦ったのか?

最近は非常勤アクトレスの起用にトラベルオーダーが一枚噛んでいると聞く。

その実績欲しさに、まだ実戦経験もないアクトレスに専用のドレスギアとスーツを支給するとも。

だがそれをいきなり戦闘空域に放り込む等、尋常な精神ではない。
戦闘の恐怖からPTSDを発症し、翔べなくなるアクトレスも少なくないと言うのに。


更に添付されていたもえのパーソナルデータを見て目を疑う。

ほんの数日で…あの時からまだ1週間も経ってないと言うのにここまで仕上がったと言うのか?

これに間違いが無いのなら、本人の練度は勿論、装備もかなりの水準だ。

だが、まずは眼前で繰り広げられる現実の対処を優先しなければ。


輪島
「攻略作戦は一時中断!春日丘もえ救出作戦に変更!…アオイさん、明日翔さんは出撃して下さい」

足の速い隊員で尚且つ、この戦場に対応出来る実力を有するアオイにはもえの保護を最優先に、明日翔にはその退路の確保を命じる。

二人とも連日の出動になってしまうが、この空域で迂闊な人選は出来ない。
撃墜されでもしたらかえって被害が拡大するので、相応の実力も求められる。


まずは先行してアオイが飛び立つ。

その到達までにもえに通信を試みるが、目の前の敵に精一杯で応答は無い。

光里
「春日丘もえ、フロストインバスと遭遇」

まずい。
インバスは初見殺し(ルーキーキラー)の異名を持つ種だ。

実戦どころかヴァイスに向き合うことすら初めてのもえでは…。

もえ
「わぁぁー!来ないでー!あっち行ってー!」

チャンネルを開いたままの通信からはもえの悲鳴が響き続ける。

輪島
「アオイさんの到達予測は?」

光里
「24秒後よ」

24秒…間に合わないか…。


光里
「春日丘もえ、フロストインバス撃破!」

モニターでもえの様子を見守っていたが、それでも信じられない。

インバスを無傷で撃破?
火事場の馬鹿力なんてものではない。


アオイ
「春日丘もえの身柄、保護したわ」

インバスの破壊とほぼ同時にアオイが現地に到達。
また数分遅れて明日翔も合流した。

明日翔
「もえさんと一緒に戻ります~」

だが事はそう上手くは運ばなかった。
三人が空域から離脱しようとしたその時、周辺が糸の様なもので包まれる。


どうやらリコサアラゴギに見付かってしまったようだ。

この蜘蛛型ヴァイスの「糸」は接触すると電装系に異常をきたす。

それで周辺空域を囲われてしまっては逃げ場が無い。

もえを保護しながら二人に応戦させるしかない。

リスキーなのは承知の上だが、今から増援を出しても間に合わないし、何より糸の結界に行く手を阻まれてしまう。

明日翔
「大丈夫ですよ~わたしが皆、守ります~」