前回→…金蓮花の花束を 10 



輪島
「アオイさん、緊張されてますか?」

アオイ
「そうね…まさかいきなりこんなところに連れて来られるとは、思ってなかったから」

神南サポートでアクトレス経験はあるものの、スナイパーズ!としてフェアリーハート隊に随行するのは初めてとなるのだが、確かに酷な話かもしれない。

輪島
「アオイさんの実力は本物です。緊張はするでしょうが自信は失わないで下さい」


しっかりと休息の後、次の作戦空域に目を向ける。

輪島
「明日翔さん、ミアさん準備は良いですか?」

ミア
「準備は万端です。何時でも出撃のご指示を」
明日翔
「わたしも~大丈夫です~」


今回の作戦空域はフェアリーの双璧と呼ばれる最強ペアに、アオイを含めたスリーマンセルで攻略する。

空域の突端、作戦の開始地点にはオベリスクの特異型。

この巨大な防塁は近付く者に破滅の洗礼をもたらす堅牢な要塞として鎮座している。

アオイ
「私が先制攻撃を仕掛けて、アレの殻を開ければ良いのね?」

ミア
「はい、動力炉が露出したら私が斬り込みますので、援護をお願いします」

アオイ
「適材適所ってわけね。分かったわ、それじゃぁ…始めましょうか」


超長距離からの先制射撃が開戦の狼煙となる。

敵襲に反応してオベリスクの防衛機構が稼働を始める。

アオイ
「熱烈な歓迎ね」

翡翠の翼は十重二十重に展開する砲火の中を軽やかに潜り抜け、川面の獲物を貫くように外郭のサブコアを穿つ。

アオイ
「開いたわよ、どうぞ」


ミア
「お任せ下さい」

砲火に曝されオーバーヒートした炉心を放熱する瞬間を逃さずミアが躍りかかる。

だが巨大な炉心を人の手で粉砕するのは容易な話ではない。

一合では破壊しきれず、数回のコンタクトを経て、ようやく要塞が支えを失い崩落する。


明日翔
「お疲れ様でした~次はわたしの番ですね~」


空域の雰囲気がガラリと変わり、敵の性質も切り替わる。

本来、小回りの利かないレールガンだか、明日翔は小器用に取り回して長距離から至近距離まで、オールレンジを自在に行き来する。

そして「親の顔より見たサソリ」と揶揄される程、出現頻度の高いセルケト。


あまりに観測数が多すぎる為、その行動パターンは完全に把握されており、今やAegisの教本でもイの一番に載っている程だ。

その攻撃は破滅的ではあるが、熟練のアクトレスには通用しない。


ただ粛々と下されるだけだ。

もうセルケトは明日翔の眼中には無く、その視線は先に居るジェズルに据えられていた。


明日翔
「やっぱり強いですね~」

VWへヴィの亜種だけあって、その圧力は非常に高い。

やはり攻略にはこちらも高い制圧力で、薫子の様に短期で決してしまうのが最適解だろう。

だがそれは明日翔にもミアにも無い戦い方だ。

それ故に今回は二人をペアにした。

ミア
「明日翔さん!」


狙撃手の明日翔と剣士のミア。

高い機動力で間合いを自在に変えてくるVWジェズルに対するには、こちらも遠近両対応する必要に迫られる。

その為に二人を起用した。

ジェズルが踏み込むタイミングでミアが前に出て、ジェズルの逃げるタイミングで明日翔に切り替わる。


明日翔
「終わりました~」

輪島
「お疲れ様でした、無事で何よりです」


………
……

その晩。

輪島
「攻略ポイントはあとひとつ」

これで全てが終わる。


敵の陣容に目を通しながら出撃メンバーを選出する。

やはり明日翔とミアは外せないが、残る一人は…定石では絵美だが、アラゴギも相手出来るように美幸にするか…。

そうなるとジェズルは明日翔一人で対応することになってしまう。

最後の大一番。

全員が無事に帰れるよう万全を期すが、一度アクトレスを送り出したら後は願う事しか出来ない。
それをもどかしく思うのも、もう何度目だろうか。

せめて戦術プランだけでも。
妖精達が迷いなく翔べるように。

こうして決戦前夜は更けていく。

…宇宙には昼夜も無いかもしれないが。

……
………

そして翌日。
ブリーフィング中に事態は急変する。

光里
「作戦予定空域から救難信号を受信!」