前回→…金蓮花の花束を 9 



四局同時展開の戦いから一夜明けて。


これ以上敵増援の危険は無くなり、この先はじっくりと取り組める。


フェアリーハート隊もここまでの強行軍で全体的に消耗している点も踏まえて、戦い方を本来のものに戻すべきだろう。


観測班によると、この先の戦闘ポイントにはジェズルが複数存在している事が判明している。


残敵は3箇所に分かれて分布しているが、まずその一角を崩しにかかる。



さて、誰を出すべきか。

隊員のコンディションをチェックしながら思案する。

薫子
「隊長、私が出ても良いかしら?」

普段は出撃に対しては一歩退いて「若手に実戦経験の場を」と言っている薫子からの申し出。

輪島
「珍しいですね。またどうした風の吹きまわしでしょうか」

今回の出撃は全体的に疲弊している中、まだ余力を残す明日翔と美幸、そこまでは決めていた。

ミアなら出られるだろうが、次に温存しておきたい。

さりとてまだフェアリーとして以前に、アクトレスとして経験が浅い絵美が連日の出撃に耐えられるか。

そんな状況での申し出は正直有難い。
薫子なら実力も申し分無い。

薫子
「敵は強いわ。若い子、特に経験の浅い子達には厳しいんじゃないかしら」

やはりリーダー、考えるところは同じと言う事か。

輪島
「ではお願い出来ますか?」


美幸
「あの…わたしがご一緒して良かったんでしょうか?愛花ちゃんの方が…」

薫子
「電撃のティタニア、貴女にお願いするわ。あの子は優しすぎるから」

そこまで言うと薫子の眼差しは鋭く眼前の敵を見据える。

薫子
「それに…今の内に残せるものは、託しておきたいから」


最後の一言は薫子が撃ち出した魚雷の炸裂音に飲み込まれ、二人の耳には届くことはなかった。

………

明日翔
「やっぱり薫子さんはすごいですね~」

美幸
「本当に…わたしもあんな風に戦えるようになりたいです」

前に立つ薫子の獅子奮迅ぶりに感嘆する妖精の女王、二人。


計測された危険度が3桁に届くVWへヴィを前にしても、薫子は一歩も譲らない。


薫子
「これで終わりよ!」

巧みな体捌きから繰り出される槍がVWへヴィの頭部を貫き、その一撃で敵は爆発四散する。

薫子
「さて、と。それじゃ次は貴女達の番よ」

美幸
「頑張ります!」

美幸や乙莉は特に武装形態の近い薫子から良く指導を受けている。

師の戦いぶりを目の当たりにして美幸は気合いを入れ直す。

美幸
「いざ!参ります!」


隊内では薫子が鬼神なら美幸は破壊神と渾名されている。

薫子は文字通り畏怖の対象、美幸の場合は戦闘中と日常生活でその意味合いは変わってくるが、今は戦場を蹂躙する絶対者として、その名に恥じない大立ち回りを繰り広げる。

小型ヴァイスの有象無象を千々に散らし、敵首魁であるジェズルに肉薄する。

その様はまるで薫子の様だ。

だが…

明日翔
「あぶない!」

明日翔が、美幸を突き飛ばす!

その直後、ジェズルの一斉掃射が元、美幸の居た地点…そこに入れ替わった明日翔へ殺到する。


明日翔は全兵装を同時並列起動して、その必殺の一撃を受け止める。


明日翔
「大丈夫ですか~」

美幸
「有難うございます、助かりましたぁ」

視界全てが爆炎で埋まる程の猛攻を受け止めて尚、明日翔には余裕がある。

この耐久力こそが明日翔をフェアリーハート隊の絶対エースたらしめている。


明日翔の援護を受け危機を脱した美幸の反撃でジェズルは爆散。

薫子
「…空域内のヴァイス反応、消滅を確認」

輪島
「皆様お疲れ様でした。帰投して下さい」

まずは一箇所。
このまま無事に任務を果たせる事を願う。