村を出ようと旅支度をしていたその時だった。
早朝にもかかわらず村長がわたしを訪ねてきた。
「実は困りごとがあってな…」
沈んだ面持ちで村長が話を始める。

何でも税金として用意していた宝石類が盗賊に盗まれたと言う。
それを取り返してほしいって言うんだけど…。
「あいつらの住処はわかってはいるんだが…何せ今は戦やら何やらで男手が足らないのだ」
なるほどねぇ…確かにこの村で男の人ってあまり見かけないと思ってたけどそう言う事なのか。
その盗賊の住処を聞くと、昨夜頼まれた誘拐事件の捜査官が居る村の近くみたいだった。
それならもののついでくらいに引き受けても良いだろう。

「おぉ!引き受けてくれるか。なら取り返した宝石はそのままサイリサイアムの役人に渡してくれ」
そう言うと村長は報酬を前金で払ってくれる。
…もしわたしがしくじったりしたら、とか思わないのかしら?まぁくれるって言うなら貰っておくけど。
でもそうなると結構な長旅になりそうね。
隣の村まで行って、そのままサイリサイアムって言う大きな街まで出向くことになるのか。
うん、何だか旅らしくなりそうね。
それじゃ行くとしますか。

そう思って宿を出たところで龍姫が話しかけてくる。
(歩いていくのは骨が折れよう?)
そう言うと目の前に黒っぽいトラが現れる。
何でも普段龍姫が足代わりに使っている魔法生物だと言う。
しかしよりによって何でトラなのかしら?もうちょっと乗り易そうな動物にすればいいのに。
とは言え折角の厚意だ。無碍にすることも無いだろう。

トラはわたしが乗るとこちらの意思を理解したかのように歩き出す。
上手く御せるか心配だったけど、乗用に造られてるだけあってそれは杞憂だったみたい。
トラの背に揺られて隣村。
話に聞いている捜査官に会って今の調査状況を聞いてみると…どうもこっちの村でも子供を買って労働力にしている連中が居るとのこと。
その中にあの農家の子供がいるのかどうかは分からないけど、そう言う手合いが居るとなれば確認する必要がある。

子供を買っていると言う大地主の屋敷に向かう途中、血相を変えて走ってくる子供が一人。
「助けて!」
そして子供を追いかける男達が数人。
この状況でやることは一つ…と言いたいんだけど、龍姫のあの杖はちょっと強すぎるのよねぇ。
でも他に武器になりそうなものも持ってないし…。

わたしはあの杖を男達の数歩手前に向けて撃つ!
…が魔力の弾は地面を深く貫いただけで男達はさほど気にした風も無くそのまま走り寄ってくる。
爆発性が全く無いと言うのも考え物ね。威嚇には全く使えない。

結局子供を助けるためとは言え、男達を木端微塵に打ち砕く羽目になってしまった。
…これってわたしが殺人とかになったりしないわよね?過剰防衛とか言われたりしないわよね?
シロディールなら反撃の末の殺害は合法な行為だけど、この龍姫の世界でどうなるのかは分からない。
わたしは急いで大地主の屋敷に強襲を仕掛けて一気に制圧する。
この村の役人が騒ぎに気付く前に子供を救出して逃げるに限る。

わたしはあの捜査官に助け出した子供を預けると脱兎のごとく村から離れる。
(中々大胆じゃのぉ)
龍姫はその様子を見てさも面白そうにけらけらと笑う。
「いや、笑いごとじゃないんだけど」
(そうじゃな、済まなんだ)
と言いつつもいまだに笑い続ける龍姫。
結局あの農家の子がいたのかどうかも良く分からなかったわね。まぁ後はあの捜査官が処理してくれることを信じるしかない。

わたしはそのまま宝石を盗んだ盗賊の住処を目指す。
ほとぼりが冷めるまでこの界隈には戻ってこない方が良さそうね。
しばらくはサイリサイアムって街で過ごすのも良いかもしれない。
別に悪いことしてるわけじゃ無いんだけど、どうして何時もこんな感じになるのかしらね?
本当に不思議でならないわ。