龍姫とわたしの旅が始まったと思った瞬間、大きな問題が発覚した。
この龍姫様、驚くべきことに現在無一文である。
今までどうやって生活していたのかは知らないけど、これじゃ旅どころの話ではない。
取り敢えず話に聞いた程近い村で手っ取り早く稼がないといけないんだけど…わたしもこの世界の事は良く分からない。
現実世界の様な経済が成り立ってれば薬を売って…と思ったんだけど、錬金器材も何も持ってないことを思い出し、商売は断念。
村までの道すがらでこの世界の事を少し教えてもらいながらどうしようかと考える。
文化水準はアカヴィリ程ではないにせよ、そこそこ高いらしい。
そして魔法文化が結構幅を利かせていると言う。
更に割と魔物怪物の類が闊歩していて、荒事には事欠かない。
「ねぇ、ところで龍姫は何か武器とか持ってないの?」
(武器かえ?それならほれ)
そう言うやわたしの右手に大きな…わたし、と言うか背の高い龍姫よりも更に大きな金属製の杖が現れる。
「うわ!?…っとと」
見た目は物凄く重そうに見えるけど、実際は片手でも取り回せるくらい軽い。
見た目通りの材質ではないのか、魔法の影響で軽くなっているのか…。
この大きな杖が龍姫の武器だと言う。
つまり破壊魔法系のメイジスタッフってことか。
どんな魔法が撃ち出されるのか興味津々で試しに一射。
「…!」
あまりの威力に驚いて声も出なかった。
狙いを定めた木が一発で粉微塵に砕け散り、撃ち出した魔力の塊はそのまま後ろの木々も撃ち抜いていく。
爆発性は無いみたいだけど、その衝撃力と貫通力は凄まじいの一言。
ふむ、これなら充分どころか過剰なくらいの戦力になるわね。
ただ…獲物が木端微塵になりそうなので狩りには使え無さそうだけど。
となればやるべきことは決まってくる。
わたしは村に着くと宿兼酒場のような場所に顔を出し、万屋兼傭兵業のようなものを始める。
村に着くまでに結構な数の怪物やら野盗山賊の様な連中やらを見かけたので、恐らくこの手の商売は引く手数多のはずだ。
わたしの予想は的中し、始めの内は胡散臭い目で見られていたけど、幾つか騒動を解決してみせるとひっきりなしに依頼がくるようになった。
やれコボルトの群れを制圧しろやら山賊に盗られた家宝を取り返してくれやら…。
上手い事商売が軌道に乗り始めたある日の夕方。
「湖の方に遊びに行った子供が帰ってこないんです」
村の農夫が切羽詰った剣幕でわたしにそう切り出した。
湖の方は危険だから行かないように、と何度も言い聞かせてはいたそうだけど、相手は子供だ。
そう言われたら行かざるを得なくなるのは仕方のないこと。
こんな世界だからただの迷子…では済まないかもしれない。
わたしは日が暮れかかった村はずれの湖に足を向ける。
すると湖に向かう道すがらで何やら子供のおもちゃが散乱しているのを見かける。
ここで何かあったか?
良く見るとそのおもちゃは近くの岩山に穿たれた洞穴に向かって点々と落ちている。
それを辿ってわたしは洞穴の中を覗いてみると…そこは野盗の住処になっていた。
何やら羽振りが良いらしく、上機嫌でお酒でも飲みながら談笑しているようだ。
その内容を盗み聞きしてみると、どうも子供を攫って売り飛ばしているらしい。
…まさかこいつらに捕まった?
まだ売り飛ばされていないことを祈りつつ、こっそりと野盗連中に近付き…BFG(龍姫の持っている杖の名前らしい、何の略なのかは不明)をぶっ放す!
…やっぱり威力が強すぎるわね。
弾に当たった野盗はそのまま文字通りの肉塊、と言うか肉と骨の破片になってしまう。
突然の事に呆然と静まり返る野盗を制圧するのは容易い事だった。
野盗の頭目が持っていた牢屋の鍵で奥にあった監禁部屋を開けると数人の子供が閉じ込められていた。
入ってきたわたしに子供達は怯えていたけど、助けに来たことを告げると安心したのかわんわん泣き出す。
…あー…どうしよう。
泣いてる子供は苦手なのよね。
早いところ連れて帰りたいんだけど、少し落ち着くのを待つしかないか。
子供達を村まで連れ帰った頃にはもう日は完全に落ち切ってしまっていた。
依頼人の待つ農家まで子供を連れて行ったんだけど、中にはもう身寄りのない子も居たらしく、そう言った子はこの農家で引き取ってくれると言う。
わたしは報酬を受け取ると農家を後にしようとしたんだけど、農家の奥さんに呼び止められる。
何でもこの農家、子供が攫われたのは初めてじゃないらしい。
今も戻ってこない子供が二人いて、そっちも探してみて欲しいと言う。
そんな無茶な…その二人は相当前に攫われたと言うし、今から追跡するのはもう無理と言ってはみたんだけど、隣村にこの誘拐事件について調査をお願いしている捜査官が居ると言う。
その人と連絡を取って何とか解決してほしいと言うのだ。
まぁ子供を諦めろとは流石に言いにくい。
どんな結果になるかは保証できないと念押しした上で一応引き受けることにした。
…となると明日は隣村に行くことになるわね。よくよく思えば今まで路銀稼ぎと言って随分長い事この村に留まっていたけど、少し行動範囲が広がることになる。
そこから先はどうなるか分からないけど、漸く当初の目的通りに旅っぽくなるかもしれない。
宿に戻ると明日に備えて早めに床に就く。
眠りに落ちる前に龍姫が話しかけてくる。
(ふむ、そなたのこと、少し分かってきたぞ。中々にお人よしな娘じゃな。さぞ苦労も多かろう?)
「うるさいわね…余計なお世話よ」
(ふふ、それは済まなんだ。明日はどんなそなたが見られるのか、楽しみよの)
「ねぇ…そのうち貴女の事も…教えてよ」
(わらわの事かえ?構わぬぞ、別に隠し立てするようなことも無いしの。してどんなことが知りたいのじゃ?)
「うぅん、今はいい…もう寝るね。お休み」
そのままわたしは眠りに落ちる。