真っ白な羽を撒き散らしながらしずなが大きな槍を振りかざす。
「A-MEN」
厳かなその一言と共に槍の穂先から真っ白な光が撃ち出される!
黒騎士がさしずめ地獄の使者ならこちらは天の使いか。
だがその光は一切の慈悲無くわたし達を包み、焼き尽くそうとする。
そして自分の放った光を切り裂くように槍を突き出してくる!

「く…」
槍の一突きは辛くも躱せたけど…。
流石に強いわね。
何とか弓で応戦してはいるけど、この苛烈な攻めの前ではどうしても防戦気味になってしまう。
穂波も頑張って踏ん張ってくれているけど、このままじゃ押し切られちゃう。

始めから出し惜しみするつもりは無かったけど…。
わたしもトランス系のスペルコードで自分の身体に異形の力を宿し、しずなを見据える。
しずなの真っ赤な瞳には…隠す事の無い憎しみが込められていて。
わたしも天羽ことかずま君を助けてあげられなかった引け目は感じているけど。
でもこの命まで差し出すつもりは無い。

トランススペルで宿した異形の影響でわたしの意識が深く重く力強い闇と同化する。
だからこの手の降霊術はあんまり使いたくないのよね。
「がぁぁぁ!!!!」
わたしが獣の様な咆哮を上げて狂ったように弓を連射する。
春花のスペルコードと穂波の掲げる盾に守られて。
わたしはただひたすらに攻め続ける。

わたしの放った矢がしずなの翼を何度となく撃ち抜き、しずなの撃ち出す光線がわたし達を焼き払う。
まずいわね…そろそろ意識が…。
降霊術、特に自己憑依の術を長時間使い続けるのは危険が伴う。
基本的に自分よりも強力な存在を憑依させるので、余り長く使っていると意識が乗っ取られてしまう。
次で決まらなかったら…わたし達の負けだ。

「ぐぁぁぁ!!」
断末魔にも似た咆哮を上げてわたしが放つ決意の矢は…しずなのお腹を撃ち抜く。
しずなが真っ白な羽を撒き散らせながら校舎の屋上に墜ちて、コードライズが解除される。
…終わった、わね。
しずなの最後 
もう戦う力を失ったしずなに疲労困憊の身体を引き摺って歩み寄る。
しずなは空に向かって手を伸ばし…その手には何か握られていた。
「!」
まさか!またあの爆弾!?
止めようにももう身体に力が入らない。間に合わない!
そう思った時だった。

「いいぜ…やれよ。それでてめぇの気が済むんなら、な」
どこから出てきたのか隊長がしずなの傍らに降り立つ。
「だがな、忘れんなよ?お前の弟は赦したんだ。このクソみたいな”世界”をな」
隊長の言葉を聞いたしずなは…何を思ったのか。それはわたしには分からない。
でもしずなは起爆装置のボタンを…押すことは出来なかった。

今回の事件はこの戦いを最後に幕を閉じた。
しずなはそのままXPDの回収班によって収容され、ブラッドコードの分離処理を受けたそうだ。
しずなは弟を助けたい一心で研究をしていたが、皮肉なことにその研究は弟の亡骸から得られた情報によって完成。
そしてしずなから無事ブラッドコードが分離されたと聞いた。

…本当に皮肉な話ね。弟の為の研究が弟の死によって完成して、そして自分だけが助かるなんて。
しずなはまだ集中治療室で昏睡状態だって聞いたけど…目が覚めてその事実を知ったら…どんな気持ちになるのか、わたしには想像もつかない。

………

さて、と。
随分長い里帰りになっちゃったわね。
もうエクスに所属して一か月くらい経ったかしら?
そろそろシロディールに行かないと。

わたしだって伊達酔狂でシロディールに行ってるんじゃないんだから。
そう言えばシロディールに行ってる理由って話してなかったかしら?
…まだはっきりとはしてないんだけどね。
わたし達一族、つまり竹内家の宿敵が居るかもしれないんだ。
そいつを倒すのがわたし達一族の悲願。
子供の頃からそれだけはほんっっっとうにしつっこく言い聞かされていて。
魔法や弓を学ぶにしてもとにかくその宿敵を討つ為に技を磨けって…。

…とは言ってもねぇ。わたし自身がそいつに何かされたわけでもないし、特別な感情が湧いてくることも無いのよねぇ。
えっと何て言ったっけ?確か…真仁 丸子(まに まるこ)、って言ったかしら?名前だけ聞くと何だか可愛らしい感じだけど、どんな奴なのかしらね?

何でもその丸子ちゃんがわたし達竹内家の初代を殺して何か大切な物を奪っていったって言う。
初代を討ったってことは…もう軽く数千年前の事になるはずなんだけど…未だに我が竹内家はその恨みを忘れずにいるらしい。
はぁ、面倒臭いわねぇ。

まぁシロディールでの生活自体は嫌いじゃないし、折角レヤウィンにも家を買ったんだ。
やっぱりそうなると帰りたい、って思っちゃうわよね。
さぁて、それじゃ行くとしますか。