「不器用な男だが上手く使ってくれ」
バーゴが神妙な面持ちでわたしに頭を下げる。
え?いきなり何?
…ってあの夢の続きか。
でもあれ?わたし何時の間に眠って?確か黒騎士と戦ってる真っ最中だったような?
とは言え夢は始まってしまった以上、どうにもならない。

わたし達がバーゴを連れて戻ってみたところ、マァリンが言うに生徒の資質があると言い出したらしい。
それでわたしの下で戦うことになった、ってわけか。
と言うことはこれからキマイラ退治ってわけね。
キマイラは森の最深部、魔の森とまで呼ばれる秘境と言うか魔境のような場所に閉じ込められているらしい。
閉じ込めているのは森の精霊。
つまり退治しに行くにはまず森の精霊とコンタクトを取らないといけない。
わたし達は準備を整えると再び森に戻る。

オークの集落を超えて更に森の奥深くへ。
「火と鉄の民、か」
エルサが上手い事見付けてくれた森の精霊がわたしを見るや胡散臭げな一言を放つ。
わたし自身はボズマーなので、どちらかと言うと森の人なんだけど、夢の中のわたしはどうやらインペリアルになっているらしい。
で、どうもインペリアルは火を使い木を切り倒す…言わば森の天敵みたいに見られてるみたいね。

「キマイラを退治に来たんだけど?」
「そうか。確かにお前達の得意な事だな」
一々皮肉を言わないと気が済まないらしい。
一応魔の森への道は開いてくれたけど、それ以上の助けは得られそうも無い。
ただキマイラを見付け易い場所…要するに餌場だけは教えてくれた。
魔王の手先に成り下がったキマイラは森の精霊にとっても脅威なのは変わらないってことか。

わたし達は森の最深部まで辿り着くと教えてもらった餌場を見て回る。
どこかに居てくれれば良いんだけど…。
餌場を巡るその道すがらの事だった。
「うわ!?またでた!」
ロロンちゃんが突然現れた幽霊に驚く。
そう言えば何か探してほしいって言ってたわね…。
あの時はちゃんと聞き取れなかったけど、今回はどうかしら?
けど幽霊は苦しそうに呻くばかりでとても会話できそうな状態では無いみたい。
一体何なのかしら?何でそんなに苦しんでるのか全く見当がつかない。

「う…ぁ…あああぁぁぁぁああぁぁぁ!」
しばらく様子を伺ってたんだけど、急に幽霊は発狂して襲い掛かってきた!
ちょっと!?
流石にこの展開は驚いたけど、幽霊は無事浄化された。
主にロロンちゃんがびっくりして乱射した光線の魔法が効いたらしい。
幽霊が浄化された後には…何か金属の破片が残されていた。
しかも尋常じゃないマジカを含んでいる。破片の状態でこれだから元は余程凄い呪具か何かだったんだろう。
そのマジカを感じ取ってエルサは表情を曇らせる。

「これ、何だか知ってるの?」
「…はい。ですが、それは今お伝えするべきことではありません。時が来れば祖父の方からお話があると思います」
何だか良く分からないけどまぁ良いわ。今すぐに何か必要なものって言うのでないなら後回しだ。
今やるべきことは…

「うっは!何か来た!」
ロロンキマイラとの出会い 
餌場を巡っていると何かが飛んできたことにロロンちゃんが気付く。
かなり大型の肉食獣が空を飛んでいる。
ふむ、空飛ぶ獅子とはよく言ったモノね。
兎にも角にも遂に見付けた!こいつがキマイラで間違いないだろう。
しかし思っていたのより随分大きいわね…。

わたしは皆に手早く指示を出す。
「ルーミは盾を構えて前に、サウルとバーゴは攻撃に集中。ロロンちゃんはルーミのフォロー。エルサは魔法であいつの動きを止めて!」
そしてわたしも槍を構えて攻撃陣に参加する。
この連携が上手くハマってくれたのか、それともキマイラが言うほど強くなかったのか…。
戦いは割と手早く片付いた。
その時だった。

「あらあらやられちゃったの?」
キマイラの亡骸の隣に唐突に現れたのは濁ったマジカを発散する女。
「ここらへんを荒らしてたのは…貴女かしら?」
「そうよ」
わたしの問いに悪びれもせずににやにや笑いながら答える。
何が目的かは知らないが場合によっては連戦になるか?わたしは手の中の槍を握り直す。
「うふふ…戦う気は無いわよ?もう目的は済んだから。ところで知ってる?」
「何を?」
「エルフの神殿のこと」

エルフの神殿?また面倒臭そうなフレーズが出てきたわね。
何でもそこでわたし達を”待っている”人が居る。それだけ言うと胡散臭い女は現れた時と同じように唐突に姿を消した。
もうあの濁ったマジカを感じないところを見るに転移の術か。
わたし達は緊張を緩めるとアーレンティールに戻ることにした。