地底湖から這い出して坑道の奥を目指すわたし達。
その時携帯端末に連絡が入る。
発信者は…しずな!?


しずなの思い

 

「お願い…助けて。あの子を助けて…。私はもう、動けない」


あの子?あの子って?
黒騎士に誰か捕まっているなんて情報は聞いていない。
でも何だか切羽詰った声音で訴えかけてくる。
「分かった。何とかするから…」

わたしの答えを聞いて安心したのか、通信はそこで途絶えてしまう。
しずなの言う「あの子」って…まさか天羽ヴェルンのこと?
でもあの二人に何か繋がりがあるなんて聞いた事は無い。
天羽ヴェルンが黒騎士の正体ではあるけど、何と言うか二重人格的なもののような印象を受けるのは確かだ。
そして天羽自身も黒騎士に抵抗する意思を持っているのは今までの言動から見て取れる。
…一体何がどうなっているのか良く分からないけど。
出来るだけ黒騎士を生け捕りにする方向で、ってことか。

正直かなり難しいわね。
こっちに手加減できるような余裕は無いし、向こうだって死力を尽くしてくることだろう。
ちょっと安請け合いしちゃった、かな。
もうこれ以上考えるのはやめよう。
兎に角黒騎士を止める。それだけだ。
坑道の最深部に黒騎士は、居た。
「愚者共よ…現れたか」
対決!黒騎士 
敵意に満ちた眼差しがわたし達を見据える。
この手の連中と言うのはどう言うわけかやたらと御託を並べたがる傾向がある。
様式美としてはそれを聞いてあげるべきなんだろうけど…生憎わたしにはそう言った精神性は持ち合わせていない。
何せ「不意が打てるなら不意を打て」がモットーだ。
まぁ正確に言うなら「勝てるなら手段を選ばず何でもやれ」ってことなんだけどね。

本当は正直言うとこんな所まで来たくは無かったのよねぇ。
ブラッドサンプルが一つでもある時点でわたしなら呪いをかけて直接相対せずとも呪い殺したいところだったんだけど…。
ややこしい事にこのブラッドコードやら何やらの現化物理学に関する連中と言うのは普通の武器や魔法が通じないときたから困りもの。
戦う時だってコードライズした武器を使わないといけない。
一応こっちに帰ってきた時にお母さんから貰ったあの家宝の刀、アレも肌身離さず持ってはいるんだけど、アレで斬りつけても本当にかすり傷もつかないのよね。

お蔭でこうして直接対峙するしかなくなっちゃうわけで。
本来は正面切って真っ向勝負!ってタイプじゃないのよ、わたしは。
…あぁ!もう!ヘンな事考えてる場合じゃない!集中しないと!
わたしは探索の途中で捕まえたカニ型ロボットみたいな異形をけしかけてその後ろから矢を放つ。
穂波には専守防衛、春花はスペルコードで攻撃支援と穂波のフォロー、と強敵相手の布陣で黒騎士との戦いに臨む。
もう何度となく繰り返してきた、わたし達の連携パターン。

「…」
黒騎士が無言で膝を折る。
…わたし達の勝ち、ね。
このまま生け捕りにできればしずなの事も一安心だ。
と思った時だった。
黒騎士が何かを取りだし…おもむろにそれのボタンを押す。
一体何!?何のボタン!?
「皆さん!伏せて…」
端末から海斗の叫ぶ声が聞こえた時は既に辺りは閃光で白く埋め尽くされていた。