数日後、あの研究所のデータバンクから拝借した情報の解析が漸く終わったと連絡が入る。
わたし達が出頭するとその解析結果について説明が始まる。
やはりあの研究所で開発されていたのは異形化爆弾だったようだ。

黒騎士のブラッドコードを応用して爆風を受けた人を異形化させる。
しかもそれだけに留まらず、その異形化は伝染性があると言うから驚きだ。
つまり爆弾の影響で異形化した人の近くにいる人も異形化してしまう…中々に性質が悪いわね。
一発でも使われたらそこから異形化の波が留まることなく広がり続けるってことだ。

そんな説明を受けていた時だった。
XPDから緊急事態の連絡が入る。
六本木でデータチップの添付された爆発物が見つかったと言う。
急ぎ出動して現場で指揮を執っている不破さんから話を聞く。
「鑑識によれば爆発物はプラスチック爆弾らしい。そして問題はこいつだ」

そう言うと一枚のデータチップを差し出す。
端末に差し込んで中を見てみると…入っていたのは音声データ。
かなり不鮮明な音声データだけど、断片的に聞こえる言葉を繋ぎ合わせると…
「我が血をもってこの世を地獄に変える」
と言っているようね。

我が血、か…さっき説明を聞いたばかりの異形化爆弾が真っ先に思い当ってしまう。
この爆弾を仕掛けたのは天羽ヴェルンその人。
爆弾には指紋があちこちに付いていて、隠すつもりは微塵も無さそうだと不破さんは言っていた。

だけどその天羽は現在絶賛行方不明中。
隊長が黒騎士を追いかけてそれっきり隊長ごと所在不明だ。
天羽は止めないといけないんだけど、どうしたものかしらね?
と思っていたところでその隊長から連絡が入る。
「奴の居場所は俺がトレースしている」
何でも千代田坑道の深部に潜んでいると言うんだけど…あそこって確か道が無くて行き止まりになってたはずよね?

「なぁに…このくらい俺の跳躍力があれば!」
え!?あそこを飛び越えるつもりなの!?
まぁビルの33階から飛び降りろとか言い出すような人だからなぁ…。
わたしもぎょっとしたけど、それ以上に慌てたのは一緒に通信を聞いていた海斗だ。
「駄目ですよ!空間封鎖されていたらどうするんですか!」
「じゃぁどうしろってんだよ!」
通信機越しに喧嘩を始める兄弟。
あれこれ議論してすったもんだした末に、海斗の発案で千代田坑道の真上を通っているアビス化した地下鉄から転移するのが良いだろう、と言う結論になった。

しかし現化物理学って言うのは流石にわたしも良く分からないけど、直接谷を飛び越えるより地下鉄からワープした方が安全確実ってどうなってるのかしらね?
わたし達は走行中の地下鉄のドアをこじ開けて線路に向けて飛び降りる!
中々スリリングな体験ね…普通なら大怪我するんだろうけど、気が付いたら洞窟みたいな所に無事着地することが出来た。
理屈は未だに理解できないけど、上手くいったと言うならそれに越したことは無い。

わたし達は千代田坑道の未踏破領域を進み始める。
だがそこで思わぬ人物と出会った。
しずなだ。
今でも出撃停止処分を受けている筈なんだけど…。
しずな脱走 
その時緊急通信が入る。
内容は「しずなが脱走したので発見次第捕獲せよ」と言うものだった。
ぎょっとして視線を上げたんだけど…既にしずなは先に進んでしまったのか、もう姿が見えなくなっていた。

一体何で脱走なんて…。
ここ最近、しずなの様子が普通では無いとは思っていたけど、どうしたのかしら?
恐らくここに来たと言うことはしずなも黒騎士に何か思うところがあるんだと思う。
実際今さっき会った時に、わたし達だけに戦わせるなんて無責任な事はできない、とか言ってたし。
ならば当初の目的通り黒騎士を目指して行けばまたどこかで鉢合わせるだろう。
そう結論するとわたし達は坑道の奥を目指す。

しかしこの坑道、アビス化してるだけあって面倒な造りしてるわね…。
以前探索したときも行き止まりの真下が大きな地底湖になっている、とかちょっと聞いたけど…恐らくその地底湖らしきところにまで探索の足が伸びる。
けどその地底湖にはとんでもないモノがあった。
なんだろう、これ?見た感じ生き物っぽいんだけど大きさが尋常じゃない。
地面から体の一部だけが出てきてるみたいなんだけど、その一部ですら最早大きな壁、としか言いようのない状態だ。
巨大生物 
その上どう言うわけか放電している。
わたし達は空気の膜で覆われているので感電することは無いけど…これじゃ近付くことも出来ない。

その時だった。
斥候として先行している隊長の声が聞こえる。
通信が入ったのかと思ったけど、そうではなかった。
どうもここに音声データのチップを残していたみたいね。
その伝言によると、この大物は相当マズイものらしい。あの隊長でさえ避けて通る程なんだから黒騎士なんかよりも危険な相手なのだろう。
それが何でこんなところにいるのかと言うと…。
どうも黒騎士が行く手を阻むためにここに連れてきて、その上拘束したらしい。
この大物の一部がこの地底湖のあちこにに生えていてそれを拘束コードで縛りつけているようだ、と隊長の伝言にあった。

…そこまで分かってるなら何とかしてから先に進んでほしかったわ。
面倒臭かったのだろうと言うのは分かるが、自分だけ別ルートを探してさっさと他所の探索にいってしまったようだ。
結局地底湖の底をくまなく歩き回り、その拘束コードとやらを解除して回る。
幾つ拘束コードを解いただろうか?
いちいち数えていなかったけど、地面から生えている大物の一部を解き放つと、大きく地面が揺れる。
アレが動き始めたのかしら?
一度戻って様子を見てみるとさっきのところで最後の拘束が解かれたらしく、大物は居なくなっていた。
これで先に進めるわね。
わたし達は地底湖から這い上がると坑道の先を目指した。