ブラッドサンプル集めも終盤。
流石に毎回毎回何か大物の異形が居て襲われる、と言う物でもないらしくここ数日はちょっとアビス内を散策しては落ちているブラッドサンプルを拾ってくるだけ、と言う日が続いていた。
そして今日までに集まったサンプルは十二個。
あと一つで目標数に達する。

あちこち色んなアビスを渡り歩いてきて、今日踏み込んだのはあの遊霊病棟の隣にある無限迷宮Ωと言う迷路のアトラクションがアビス化した場所だ。
それにしても迷路、か。
面倒な探索になりそうね。
かと言って他のアビスは粗方見回ってしまったし、残るのはこことジオマトリクスと言う胡散臭い組織のの研究所くらいなものなんだけど。

コードライズを済ませていざ踏み込むと、入り口に早速ウサギのような異形が居て…目があう。
わたしは無言で弓を取り出すと、異形は慌てて降参する。
何でもこの異形は迷路の案内役らしく、戦う気はさらさらないと言う。
怪しいウサギ 
そして案内人らしくこの迷路について教えてくれる。
どうもこの迷路は幾つかのエリアに分かれていて、迷路としての傾向がことなるらしい。
第一関門は普通の迷路、第二関門はワープゾーンを多用して方向感覚を惑わすもの…そして最奥については行ってみてのお楽しみ、だそうだ。

そしてその三つのエリアでチェックポイントを通過すると景品がもらえるんだそうな。
このエリアにブラッドサンプルがあるのは解析済み。
となると…多分その「景品」とやらがブラッドサンプルってことかしらね?
面倒だけど仕方ない。
わたし達は迷路に挑戦することになった。

第一関門はまぁ小手調べってことなのかしらね。
何のことは無い普通の迷路。ゴールがそのチェックポイントになっていて、クリアの証としてスタンプを掌とかに押せば終わりだった。
わたしはゴール地点にあったスタンプを穂波の手の甲にぺたん、と押す。
「えへへ、やったね!」

そして次のエリアに挑む。
今回はゴールするのにちょっとしたパスワードを答えないといけないらしい。
そのヒントが迷路内に散在していると言う。

「あら?あらら?えっと…あら?」
説明されていた通りこのエリアはあちこちにワープゾーンみたいなものがあるらしく、数歩歩く度にどこかに飛ばされてしまう。
お蔭で春花が目を回してしまう。
流石にこれは手強いわね…わたし達はアビス探索の際に自動で記録される移動形跡を呼び出してこまめに確認しながら歩く。
しかもこの迷路はただゴールに向かえばいいわけでは無い。パスワードのヒントを探す必要もある。

迷路のそこかしこにある部屋でそのヒントは見つかるんだけど…
ヒント1:赤い服を着た怪人
ヒント2:七つの顔を持つ鳥
ヒント3:虚飾の輝きを湛える樹
取り敢えず三つのヒントは見つかったんだけど…何の事かしら?
全面を踏破したわけではないけど、取り敢えずゴール地点には辿り着く。

「さぁ!パスワードは何かな!?」
妙に陽気な声がわたし達に問いかける。
一体何だろう?見付かったヒントは三つ。まだヒントがどこかにあったのかもしれないけど…取り敢えずこの三つで考えてみる。
「赤い服の怪人に七つの顔を持つ鳥、虚飾の輝きを持つ木…?かぁ…」
何だろう、と三人であれこれ考える。
この三つの要素を持つ何かがあるはずなんだろうけど…。

「赤い服に七つの顔…そして虚飾の輝き…もしかして」
春花が何か思い当ったようだ。
「ひょっとしたらクリスマス、じゃありませんこと?」
クリスマス?
…あぁ成程、そう言う事か。
赤い服を着た怪人はサンタクロース、七つの顔を持つ鳥ってのは七面鳥、虚飾な輝きの木はクリスマスツリーか。
確かにそれっぽい感じはする。
何と言うか随分と悪意のある例え方をしたものね。

他に思い当ることも無いので、三人で声を合わせて答える。
「「「クリスマス!」」」
「…OK!正解!」
どうやら春花の推測が正しかったようね。

かくしてわたし達は謎に包まれた最終エリアに歩を進める。
一体どんな迷路が待ち受けているのかしら?
そこは…なんとも目に悪い場所だった。
床から照明が照らされやたら眩しい。
これじゃ良く前が見えないじゃない…。
視界が悪い中を進む迷路、ってことか。

まったく良くこんな事思いつくわね。
しかもその上、その通路上にワープゾーンまで置かれているから堪らない。
ただ場所によっては床からの照明が無い所もある。
そう言う所でわたし達は移動形跡を確認して少しずつ奥へと進む。
迷路自体はそれほど複雑では無かったので、割とあっさりとゴールに辿り着けはしたのだけど…。
ここでもパスワード、と言うかクイズに答えないといけないらしい。

「この迷路を満たす輝きの量は?」
「…は?」
輝きの量?床からの照明のワット数とか?
「えっと…100ワット?」
「残念!はずれ!」
どうやら違うみたいね。
でも輝きの量、かぁ…何の事だろう?
多分電球のワット数では無さそうなんだけど…。

そう言えばこの迷路、床が光ってる所とそうでないところがあったわね。
まさか…まさか、ね。
わたしは自分の予想にげんなりする。
予想が正しければ…この迷路を完全踏破する必要がある。
そしてその上で面倒臭い計算までしないといけない…。

「うぅ~…ひかりん、目が痛いよぅ」
穂波が目をしぱしぱさせるのを横目にわたしは移動形跡を確認して、床が光っている部分の面積を計算する。
………あぁぁ!もう!わたしは測量士じゃないのよ!?
流石にこれは無理だと判断するとそのデータを司令部に送って代わりに計算してもらう。
「52平方メートルですね」
「ありがとう、助かったわ」
その答えをゴール地点で伝えると…。
「OK!OK!それじゃぁ、最終エリア…透明迷路に行ってみよう!」

答えは正解だったみたいだけど…まだ先があるのか。
しかも透明迷路?
わたし達が通されたのは…だだっ広い空間だった。
一体これの何が迷路なのか。
穂波もいい加減迷路に飽きてきたのか、広い空間に出られて大はしゃぎで走り出した…
「ぎゃん!…いたい~」
途端に何かぶつかって鼻を強打したみたい。
穂波がぶつかったらしいところに手を伸ばしてみると…壁がある。
…透明な壁が。
そう言う事か。

わたしは左手を見えない壁に沿わせるとゆっくりと歩き出す。
こういう時はこれに限る。
別に暗いわけでもないのに手探りで壁を確かめながら少しずつ、少しずつ進む。
壁が透明なだけでここにはワープゾーンや回転床みたいな仕掛けはないらしい。
結局この透明迷路を抜けた先に…ブラッドサンプルが置かれていた。
…あれ?そう言えばスタンプは関係なかったのかしら?途中から見付け損ねて忘れてたわ。
これじゃ穂波の手を汚し損ね。

「え~~~!景品貰えないの!?」
穂波がぶーたれるけど、まぁ目的のブラッドサンプルが見付かったんだから良しとして貰う他無い。
兎に角これでサンプルは集まった。
後は海斗に渡してデスヘイル対策をしてもらうだけね。