「はふぅ…」
今日も無事帰ってこれた。
正直あの大狐に穂波が吹き飛ばされた時は肝を冷やした。
この先黒騎士との戦いになっていけば…更なる激戦もあり得る。
そうなった時に皆無事に生きて帰ってこれるだろうか…?
ただでさえわたし達は「六人一組が基本」と言われている中、三人で戦い続けている。
不安は募るが…連日のアビス探索の疲れもあり悩み事の最中でも瞼が重くなる。

わたし達は森と同化するように築かれた街に降り立った。
エルサの出身地、アーレンティール。
ってことはまたあの夢の続きか。
ここはやはりエルフの都市と言うだけあって自然と一体化した街並みが広がっている。
わたしはエルサに案内されるまま族長の住まう屋敷に向かう。

「ただいま戻りました」
エルサが屋敷の召使いに告げるとそのまま応接室に通される。
「おや?お戻りになりましたか」
その応接室で待ち受けていたのはエルフの青年、ミンツ。
何でも彼も錬金術師で、族長の側仕えでもあると言う。
「では族長をお呼びしますね」
そう言うとミンツは一旦部屋を出て…数分後、族長と共に戻ってきた。

「円卓の騎士様をお連れしました」
エルサがわたしを族長に紹介する。
「ふむ…以前とはまた随分と変わられたな。よもや女性になっていようとは」
まぁわたしもちらちらと耳にしてはいたけど、わたしの前世は男だったらしい。
「して、如何かな?百年ぶりの世界は?」
百年ぶり、と言われてもわたしとしてはそんな実感は微塵も無いわけで。

まぁそんな挨拶も早々に切り上げて話は本題に入る。
何でもわたしに託したい人が居ると言う。
「入りなさい」
族長に促されて応接室に入ってきたのは…一人の女の子。
ルーミ参戦 
年の頃は…わたしとそう変わらないくらいだろうか?ただ見た感じかなり気が強そうね。
出で立ちも意匠を凝らした金属鎧に剣と盾。戦士や傭兵と言うよりは…まるで騎士と言った趣か。

何でもこの女の子、人間族の王国グロムバルグのお姫様だそうだ。
成程、どうりで。
深窓の令嬢と言うタイプでは無いようだけど、所々に品の良さ、育ちの良さが見て取れる。
まぁそれはともかく、そのグロムバルグと言う国はもう十年以上も前に魔王に制圧されてしまったと言う。
その際に落ち延び、アーレンティールに身を寄せ反攻の機を伺っていたところ、わたしが円卓の騎士の生まれ変わりとして現れた。
百年前は敗北したとは言え伝説にもなるほどの「円卓の騎士」だ。
わたしと手を組めば何らかのきっかけになると踏んだのだろう。

「して、この者…使えるのか?」
流石姫君。常に上から目線ね。
だがエルフの長はそれを嗜める。
「違いますぞ、王女殿。この者は貴女の家臣ではない。貴女はこの者の生徒として戦うのです」
「何…だと…?」
自分が生徒となることに、主導権が自分に無い事に驚愕する。

結局族長が諭してくれたお蔭でお姫様ことルミーナ姫はわたし達と共に行動することになった。
「また一緒ね。よろしくね、ルーミ」
エルサが嬉しそうにルミーナ姫の手を取る。
「随分と親しいのね?」
お姫様を愛称で呼ぶあたり、古くからの付き合いがあるのだろう。

何でも聞くとルーミが落ち延びてきた頃はまだ幼子で、その頃からエルサが姉の様に接してきたと言う。
「でも最近はすっかりルーミの方がお姉さんね」
種族的な都合もあって人間族の方が成長が早いせいでエルサとルーミの関係も次第に移り変わってきていると言う。
「まぁ性格的な部分も大きいとは思うがな」
兎に角二人は仲が良いと言うのは分かった。
そして新たな戦力が加わって、また少しロンドエールも賑やかになるわね。
少々気位が高いみたいだけど、ちゃんと分別はありそうだし、ややこしい揉め事はそう起こさないだろう。

「では話の続きをしたいのだが、よろしいかね?」
族長が話題を変えて一通の手紙をわたし達に見せる。
…が、書かれている内容はさっぱり読めない。一体何語なのよ、これ?
「これはオークの族長から送られてきた物だ」

何でもこのアーレンティールの程近くにオークの集落があると言う。
内容を翻訳するに、どうもエルフ達に助けを求める旨が書かれているとのこと。
オーク族は荒くれではあるが、非常に誇り高い種族で他種族に助けを求めると言うことは余程の一大事が起こったのだろうとエルフ達は見ている。
「そこでそなた達にこの件を頼みたいのだ」
戦いで後れを取るようなことはまず無いと思われるオーク族が危機に瀕する…か。
これはかなり厄介な事になりそうね。
わたしは新たに参戦したルーミも引き連れてアーレンティールの森に踏み入った。