「ブラッドサンプルも集まってきましたね。こちらの研究も少しずつですが、形になりつつありますよ」
司令部で任務の確認中に顔を合わせた海斗がそう言う。
あのデスヘイルに対抗する何か、と言うヤツの目途が立ってきたみたいね。
何でも装備品、しかも武器の形をとることになりそうだと言う。
そしてその完成に必要なブラッドサンプルの数は…13個。
と言うことはもう目標数の半分以上が集まってることになるか。

そんな話をしている時だった。
北米支部の隊長、アリスから連絡が入り、あれやこれやと海斗と話し始める。
どうやらこのアリス、何か企んでいるらしい。
通信が終わり、海斗が呆れたような溜息を一つ。
そしてわたし達にパーティに参加するよう勧めてくる。
何でも隊員の慰安と士気向上を目的としたクリスマスパーティを開くと言うのだけど…。
これを聞いた穂波は大喜び。
霊園にお化け屋敷と穂波にとっては立て続けに怖い思いをしてきたから、ちょっとしたご褒美として丁度良いわね。

それにしてもクリスマスか…アビスの探索で忙殺されてクリスマスとかすっぱり忘れてたわ。
…誰?「その割にはアソバでゲーム買って夜更かししてる」とか言ってるのは?
まぁそれはともかく、折角の催し事だ。参加するのも悪くないだろう。
これで不参加とか言ったら多分穂波が癇癪起こして暴れそうだし。
「ちなみに拒否権はありませんよ。絶対参加です」
何でも海斗が言うにあのアリスの発案で執行されるイベントだと言う。

そんなわけで翌日クリスマスパーティが執り行われることとなった。
まったく急な話よね。わたし達も準備、と言うかプレゼント交換用の何かを用意しないといけないみたいだし。
…急にそんなこと言われてもなぁ。
わたし達みたいな戦闘要員は小隊単位で用意すれば良い、って話だけど、そうなると受け取る相手もどこかの小隊、つまり複数人になることもあるってことよね?
うーん、どうしようかな。どこの誰が受け取るのか、そしてその人数すら不明となると中々良い物が思い付かない。

「何が良いと思う?」
「やはり何かぱっと使ってしまえるような物がよろしいのでは?」
「消耗品、かぁ…それが無難っぽいけど、何だかプレゼントにするには味気ないんじゃないかしら?」
消耗品となると大体が実用品、よね?流石にプレゼントに乾電池とか贈るのは…斬新かもしれないけど控えたい。
「じゃぁお菓子にしようよ!甘いの嫌いな人なんてこの世界にはいないよ!」
…ふむ、その辺りが良いか。

そして翌日。
突貫で教室を改装したパーティ会場に入るわたし達。
「へぇ、一日でよくここまで準備したわねぇ」
部屋もきれいに飾り付けられてるし、パーティっぽい食べ物や飲み物も充分に用意されているようだった。
「もう!急にパーティなんて言われても…」
普段オペレータをしている規子さんも慌ただしく料理を並べて準備している。
でも怒っているのは料理させられたからではなく、急な事でちゃんとした料理が出来なかったことに対してみたいだけど。

そんなこんなでパーティも始まり、任務の緊張から解放された和やかな雰囲気が場を包む。
それにしても会場を見回すと結構人が居るものね。
まぁそれもそうか。何も現場に出てるのがわたし達だけってはずも無いし。
ただ今まで司令部で他の小隊の人とか会ったことが無かったから、こんなにエクスに隊員がいる実感が無かっただけだ。
そんな時だった。
用意されていた大型のモニターにアリスから通信が入る。
「皆楽しんでるようで何よりね」
クリスマスのお誘い 
会場にヘンな緊張感が一気に広がる。

…この人ってどんな人なのかしら?何と言うか皆心底恐れてるような…そんな空気を感じる。
「それじゃクリスマスパーティ定番のプレゼント交換でも始めましょうか…そうだ、一つルールを設けましょう」
アリスはモニター越しに挨拶を済ませると、何か思いついたらしくにやりと笑う。
何でも自分達が用意したプレゼントを選んでくれた人達に自分達に関するクイズを出せと言う。
で、正解したら無事プレゼントを贈呈、ってことらしい。
企画としては面白いのかもしれないけど、まったくまた面倒な…迂闊なクイズ出して外れられたら用意したプレゼントが無駄になっちゃうじゃない。

…そしてわたし達がプレゼントを選ぶ番が回ってきた。
「穂波、選んでいいよ」
わたし達は結構順番が遅い方だったので残ってるプレゼントもそう多くは無い。
んー…どれにしようかな…と真剣な眼差しでプレゼントを見定める穂波。
「じゃ、これ!」
穂波が選んだのは割とシンプルなラッピングに可愛くリボンが添えられた箱。
「あら、それは私のですね…えっとクイズですよね」
贈り主は規子さんか。

「えっとそれじゃぁ…私、女の子と同居してるんですけど、その子の名前、ご存知ですか?」
規子さんと同居してる女の子?
…あぁ、何だか聞いた事あるわね。この前クラスでそんなこと話してるのいたはずだ。
「確か…あそこにいるヒカルちゃん、よね」
わたしは会場に居る一人の女の子を見ながら答える。

何でも以前エクスが解決した事件の際に身寄りをなくしたところを規子さんが面倒みることになったとかなんとか。
「まぁ、ご存知でしたか。正解です…中身はちょっと日持ちしないものなので早めに食べて下さいね」
規子さんはほっとしたように、にこりと笑う。
無事正解できたか。ちなみにプレゼントの中身はロールケーキだった。それにしても器用ねぇ。
わたしもそこそこ料理は出来るけど、こう言ったお菓子の類は上手く作れないのよね。
そんなこんなでパーティはのんびりとした時間を乗せて…柔らかな空気のまま終わることが出来た。

たまにはこう言うのも良いわね。
正直わたしはパーティ中に何か緊急出動とかあるんじゃないかと思ってたんだけど、それは杞憂に終わったみたい。
それじゃまた明日からブラッドサンプル探し再開、と行きますか。