「お帰りなさい」
眠りにつくなりマァリンに出迎えられる。
わたしは別に夢の世界の住人ってわけじゃないし、マァリンもそう言う意味で出迎えたわけじゃないはずだ。
谷のゴブリンをあらかた退治して帰ってきたところから、かしらね。

取り敢えずこれで作戦は無事完了。後はこの空飛ぶ城で世界を股に掛ける大冒険ってところかしら?
と思ってたんだけど、わたしにはまだやるべきことがあるらしい。
それは生徒との信頼関係を築くこと。

この世界を蹂躙した魔王ことオルオーマと言う奴は幻術が兎にも角にも得意らしく、特に人心を掌握する術が凄まじいと言う。
その人心掌握術、俗に言う魅了の魔術に対抗するには魔王との戦いに挑む仲間同士の間に強い信頼関係が必要になるんだそうな。
説明を聞くに、その人心掌握術って言うのは魅了と言うよりはお互いに疑念を抱かせて仲たがいさせるタイプの術みたいね。

そんなわけでわたしはこれから「生徒」となる人達、もちろんサウルやエルサ、ロロンちゃんもそうなんだけど、そう言った人達と確かな信頼を築いていかないといけない。
で、何をするのかと言うと面談だそうだ。
面談なんて言うと随分と大仰な感じだけど…まぁわたしが「先生」で仲間達が「生徒」と言うならやはり面談と言う表現になってしまうんだろう。

「面談、ねぇ」
わたしは実際そんなにお喋りが得意なわけでは無い。
ちょっと気乗りしないわね…。
この前だって学園で面談とか受けさせられたばかりだって言うのに。
「どうしようかしらねぇ?」
マァリンは誰でも良いから呼び出して話をしてみろと言う。
とにかく習うより慣れろって方針なのかしらね?
仕方が無いわね。

わたしは意を決するとロロンちゃんを呼び出した。
「えへへ…何だか緊張するね」
わたしと向かい合って座り照れたように笑うロロンちゃん。
「わたしも初めてだから、勝手が分からないのよね」
「へぇ、先生もそうなんだ。あたしと一緒だね」
そんな出だしで面談と言うか、お喋りが始まる。

「あたしがヒーラーやってる理由?それはね」
「そう言えば先生ってお酒、好き?」
「この耳を見てよ!ちゃんと大人だって分かるでしょ?」
ロロン面談 
あれこれと話題を変えてロロンちゃんとお喋りするわたし。

こんなので良いのかしら?
通り一遍お喋りしてロロンちゃんを帰す。
「初めてにしては上出来です」
どこに潜んでいたのか、ロロンちゃんが出ていくと同時にマァリンがどこからともなく出てくる。
ふぅん。あんなので良いのか。まぁ確かにロロンちゃんの事は色々分かったけど。
そして今後はマメにこう言ったお喋りタイムを設けて行けばいいらしい。

これでわたしの成すべきことは通り一遍説明し終わったようだ。
マァリンはわたし達を円卓の間に呼び集める。
「それでは今後の事をお話しします」
そう言うとマァリンは世界地図を広げる。
わたし達が今いるのは、っと…どうもこの世界でも一番端っこの方みたいね。
そして次の目的地はエルフ族の都市アーレンティール、エルサがここの出身だって言ってたわね。

「で、この城は空を飛べるんだろ?何で一気に敵の城に突っ込まないんだ?」
「今は時期尚早です。私達の戦力も不足していますし、何より敵の本陣は強力な闇の力に守られています。それを打ち破る術を用意しなくては」
サウルの短絡的な思考はマァリンに一蹴される。

単純に戦力も不足していれば、さっき説明された信頼関係もまだまだ弱い。
魔王に挑むにはあまりにも心許ない。
だけど時間が無尽蔵にあるかと言えばそう言うわけにもいかない。
敵はその勢力を次第に広げている。
マァリンは広げた地図に大きく丸を付ける。
「もうこの辺りまで魔王の手の内に落ちています」
「何だって!?こんなところまで?」
それはもうほぼ世界の八割を占めていた。
後残された地は、エルサの出身地アーレンティールと今わたし達のいるフューミ村くらいなものだ。
これは中々厳しい戦いになりそうね。

「そうです。何故、光里が転生しなければならなかったのか、その意味をよく考えて下さい」
わたしが転生した意味?
あぁ、そうか。わたしの前世だった勇者とやらが魔王に負けたから。
「そうです。いわば私達はどん底からの這い上がらなくてはならない立場なのだと言う事を忘れないでください」
…何かわたしが負けたせいみたいに言われてるのがちょっと気に入らないけど、状況はわかった。
「それじゃもうこの村で出来ることは無い、って言うのなら…行きましょうか」
わたしがそう言うとマァリンは静かに頷き城を長距離移動させる準備に取り掛かった。