「ブラッドサンプルの反応があります」
霊園アビスに入ってすぐに司令部に問い合わせて反応があるか見てもらう。
やはりここにあるか。

わたしの占いは滅多に外れない。
占いの腕そのものには結構自信はあるんだけど、わたしは占い師としては二流だ。
占いって言うのは単に未来を覗き見するための行為ではない。
本当の目的は暗い未来を避けるためのもので、「外れさせないといけない結果」と言うのも存在するってこと。

だから「あの占い師は100%当たる」なんて言われてたらむしろ気を付けないといけない。
それはわたしと同じタイプで占うだけ占ってアフターケアができない占い師だ。
本当の一流は悪い未来が見えたらそれを回避できるように、占いの結果が外れるように対策を講じてくれるものだ。
でもそれは占いの腕よりも人生経験や深い見識が求められることが多い。
そんなわけで占い師って言うのは魔法の腕前だけでなく、人間としての深み、そして話術まで求められる結構敷居の高い職業なのよね。
まぁそんな占い談義はともかく。

「やっぱり有るみたいね。それじゃ行きますか」
わたし達は霊園に踏み込む。
ここから先はマメに司令部と連絡を取って、サンプルの在り処を絞り込んでいくしかない。
取り敢えず入ってすぐの区画には無さそう。
墓地を歩き、地下の霊廟に入ってもう一度チェックするもまだサンプルからは遠いみたい。
サンプルの近くまで来ると司令部の方でかなり詳細な座標まで識別できるんだけど…それが特定できる場所では無いようだ。

………
……


地下の霊廟と地上の墓地を行ったり来たりしながら司令部と連絡を取り続ける。
「!近くに反応があります。座標は…」
良し、かなり近くまで来たわね。
わたし達は墓地の納骨堂みたいな建物に入り、特定された座標に行きつく道を探す。

「おかしいわね?座標からしたらこの先なんだけど…」
どうやっても道が無い。
「お任せくださいな」
春花がにこりと笑うとスペルコードを行使する。
フロアサーチ。
隠し扉を探したり、道なき道を見出すのに使うスペルコードだ。

「…ここですわね」
そう言って見た目ただの壁な場所を解析すると…扉が具現化した。
そしてその先にはブラッドサンプル。
今回は強力な異形を相手にしないで済んだわね。
それじゃ帰りますか、と思ったところで司令部から連絡が入る。

「まだブラッドサンプルの反応があります」
…またか。
何だか一か所に付き二つくらいブラッドサンプルが落ちてるみたいね。
でも結構あちこち見てきたけど…まだ行ってないところとなると…あっちの方か。
やっと帰れると安堵したところで絶望に叩き落とされたような顔をした穂波の手を引いて探索を再開する。

それにしてもこの霊園、結構複雑な造りしてるわね
とにかく地下霊廟と地上の墓地を行ったり来たり。
今度は地下霊廟でのことだった。
霊廟に入るなり何と言うか…埴輪に話しかけられた。

何だか良く分からないが、どうも埴輪の王様みたいなのが居て、それが復活するらしい。
その邪魔をするなと威嚇されてしまった。
埴輪は威嚇するだけ威嚇して霊廟の奥に行ってしまう。

その時、XPDから連絡が入る。
どうもこの霊園アビスの巡回を担当していた隊員が異形に拉致されてしまったらしい。そしてその隊員の反応はこの先にあるそうで。
ブラッドサンプルの探索と並行してXPD隊員の捜索もすることに。

しかしこのパターン…恐らくその埴輪の王様と一悶着あるんだろうなぁ…。
まぁヘンな幽霊やゾンビが相手じゃないだけマシか。少なくとも穂波の心の負担はかなり軽く済むはずだ。

そして霊廟の最奥。
「目覚めてみれば眼前に敵が迫っているとはな」
埴輪王 
見上げる程大きな埴輪が厳かに語り始める。
これがあの埴輪の王様みたいね。
…そして王様の足元にはXPD隊員が無残な躯を晒している。
「隊員の死亡を確認…ですが、任務はまだ終わりではありません」
この危険度の高い異形、埴輪王を倒さないといけない。

「ところで貴様ら…一万円札は好きか?」
唐突に埴輪王が問いかけてくる。え?一万円札?
「まぁ嫌いって人はいないんじゃない?」
一万円札とか埴輪のクセに現代の紙幣を知ってるとか…どうなってるのかしら?
「そうだな。特に描かれている人物が良い」
「え?福沢諭吉とか知ってるの?」
わたしのこの返答がまずかった。

「何…だと…?」
埴輪王の声が一段低くなる。
「聖徳太子以外が描かれた一万円札など偽札だ!この不届き者め!」
しまった!旧一万円札の話だったか…!
そんな些細な事で激怒した埴輪王がわたし達に襲い掛かる。
しかしこの埴輪王、今まで封印か何かされてたはずなのに、何でこんなに一万円札の事を知ってるのよ!?

成り倒しで戦いに雪崩れ込む。
結局のところ埴輪王は無残な破片となってわたし達の足元に散らばることになった。
そしてその破片からブラッドサンプルが検出される。
「もう反応はありませんね」
これで霊園アビスの探索は終りね。
何だかんだでブラッドサンプルも結構集まってきたと思うんだけど、あと幾つ必要なのかしらね?